先日、自閉症スペクトラムの子供を持つ親たちの取り組みについてのドキュメント番組を見た後で、あることを調べるためにネットで検索していたら、ベルナルダンでのジュリーア・クリステーヴァの講演の記録に行きついてつい全部読んでしまった。
この人とフィリップ・ソレルスの一人息子が「障碍者」であることは知っていたけれど、そのことでアルシュのジャン・ヴァニエと出会ってメールを交換しているうちに、これほどまでにカトリック・シンパになったのだろうなあと感慨深かった。
何しろ夫と共に毛沢東ファンだった過去があるから今も不可知論者の立場は崩していないけれど、人間には絶対何かを「信じる」必要があるということは派手に言い立てている。
人間性と、超越の必要性はセットになっているので、必要とあれば神だって作り出す、神が存在するから宗教があるのではなくて、神が必要だから宗教を作った、と、まあショーペンハウエル風のことを「今風」に蒸し返しているように聞こえる。
でも、つい最近、彼女は24歳でフランスに留学してから1967年にソレルスと結婚、1973年に毛沢東主義者になるまでルーマニアの諜報局に見込まれて月一回、フランスの政治状況について口頭報告をしていたことが話題になったばかりだ。
コードネームはサビナで、要するに「スパイ」だったということらしい。
結婚したソレルスもフランス共産党と近い『テルケル』誌の編集長だったから都合がよかったという。報酬はなかった。
ルーマニア政府が、2009年から社会主義時代の文書公開を始めて、冷戦後に活躍する政治家や作家やジャーナリストも西側で「スパイ」活動をしていたことが次々と判明したことでスキャンダルになっているのだ。
ソレルスと結婚して半世紀、『芸術の一つの形としての結婚論』(独立した自由な2人がハーモニーを創り出すという意味)などという共著まで出している「名物夫婦」なのだけれど考えてみたら怒涛の人生だ。
冷戦下のルーマニア生まれ、留学、諜報活動、毛沢東支援、アラン・ソーカル(ポストモダンの思想家が科学用語を濫用したと批判)事件、一人息子の神経障害、ユダヤ人の家系だが東方正教に親しんだ過去を持ち、ヨーロッパのカトリック社会活動を評価し、カトリック女性神秘主義者についての研究もする。
精神分析医になるはずだったのに、障碍児を持ったことで作家になった、とも言っている。
まあ、そもそも精神分析を専門とし、冷戦世代の共産圏出身で、諜報活動、毛沢東主義、構造主義、ポストモダン、障碍を抱える息子、神秘主義などと屈折しまくった人生のせいか、どんなに誠実そうに語る時でも、何かの鎧をまとっている感じがしないでもない。
フレンチ・フェミニズムの一つの形を体現している人ではある。
クリステーヴァはシモーヌ・ド・ボーヴォワール賞というのを創設し(パリ大学などがスポンサー)、女性の解放に貢献した人を応援しているが、単に無神論イデオロギーに目覚めたプチブル・カトリックの娘だったボーヴォワールには絶対に見られない何か必死なところを抱えている。