L'art de croire             竹下節子ブログ

ワールドカップでフランスが優勝した(追記あり)

フランス国内ではフランスが勝つと予測した人が80パーセントを超えて、二度の優勝を示す二つの星の着いたユニフォームも早々と用意されていたから、これで負けたらどうなるのかと思っていたが、結局下馬評通り勝った。

それでも前半はぱっとせず、ハーフタイムでは勝ち越していたにもかかわらず相変わらず酷評コメントが流れていた。「死闘」を展開するクロアチアの迫力はなかなかのものだったけれど、結局はフランスは4人が4点を獲得するという層の厚さを見せて勝った。

準決勝には12歳の黒人のサッカー少年を連れて行き、決勝には傷痍軍人を同行したマクロンはクロアチアの女性大統領と終始にこやかにやっていた。男同士だったら少し雰囲気が違っていたかもしれない。

カップの授与式が大雨で、最初プーチンだけに傘が差されたことが印象的だった。
雨でずぶずぶの芝生に飛び込んですべってはしゃぐポグバなどを見て、これは水泳大会か、と揶揄していた人もいたが、あれだけ派手にすべっても楽しそうにしているのと、試合中には相手チームのファウルを誘発するために少し転んでも大げさに痛そうにする選手の姿のギャップがありすぎる。

1998年のブラジルとの決勝のようにきれいな勝ち方ではなかったけれど、最後までひやひやさせるという点ではファンを楽しませたのだろう。

今は更衣室でも選手たちがすぐにスマホを手に取って様子を撮影してインタグラムに放出するので、メディアもそれを流す。昔ならお宝映像ばかりだ。
マクロンもマリの傷痍軍人と共に入ってきてはしゃいでいる。クロアチアのような女性大統領だったら更衣室は無理だったろう。(フランスのスポーツ相は女性だ。軍隊相やスポーツ相に女性を配することで女性重視と《ぼくちゃんは男》という二つのメリットがマクロンにあるのかも)

モスクワは大雨でもパリは晴天でシャンゼリゼはすでに優勝を確信していた人々でいっぱいだった。

意外なことが一つあった。

1998年の自国開催での優勝の時にシャンゼリゼに来た人が、今回の方が人が多いというのだ。喜び方も派手だと。

理由を解説されてなるほどと思った。

1998年にはブラジル人もたくさんいたからだ。

そういえば当時パリ中にブラジル人があふれていた。

今回は、フランスの開催ではないから盛り上がりが前より少ないのかと思っていたけれど、確かに、モスクワでの決勝に、クロアチア人がわざわざフランスに来る理由はないから、フランスはフランスのサポーターのフランス人でほとんど埋め尽くされていたというわけだ。モスクワにも行きたいけれど、フランスに残ってみんなと一緒に感動や興奮を分かち合う方がいい、という人の心理が分かった気もする。

何にせよ、街行く人々の機嫌がよくなるのはテロの恐怖に戦々兢々としているのと違って喜ばしい。こういう時は、個人競技で天才プレーヤーがどんなに活躍するよりも、団体競技出の勝利というのは「エゴ」や「ナルシシズム」に取り込まれないで「同胞愛」「連帯」のカタルシスがあるのは喜ばしい。
チームが互いのエゴをどのように管理するか、ということは、トリオやカルテットなどで演奏する私にとっても切実な問題だから、考えさせられる部分もある。

もっとも、サッカーとはスタープレイヤーが月何億円という収入を得ている世界だ。
いろいろな意味で私には理解不可能な領域だ。
次期開催国にカタールが選出されるにあたって買収があったといわれ、取り消しの噂も出ているという。気の遠くなるような大金がどこでも動いている。

とはいえ、スポーツの国際大会は経済や愛国心だけではなく外交のツールでもある。

スポーツの世界選手権に往々にして世界大戦風なレトリックが使われるのは嫌だけれど、フランスはお得意のユニヴァーサリズムをちゃんと掲げることができるから羨ましい。監督は優勝後すぐのインタビューを「共和国万歳」でしめくくった。フランス万歳ではない。「自由、平等、同胞愛」の理念万歳ということだ。

実際は、共和国理念だけではやっていけないのでフランス軍隊の標語「名誉と祖国」の方がワールドカップの熱狂には透けて見える気がするが。
前にこことかここで書いた。
モスクワで観戦していたメキシコ人が、「フランスが勝って嬉しい。フランスには勝利する価値がある。普遍価値を擁している国だからだ。我々はみな普遍価値を必要としている」と言ったという。

フランスでは、憲法はいじられまくるが、「自由、平等、同胞愛」という福音書っぽい普遍理念と世界人権宣言はいじられない。

一夜明けた新聞には「永遠」という言葉が使われているのが目立った。1998 年の優勝の時も「永遠に」とあったそうだ。デシャン監督は選手たちに「君たちはこれで一生、一つだからね」と 言ったそうだ。その「永遠」はユニヴァーサリズムに担保されて居場所を獲得する。

追記:

16日も シャンゼリゼでの凱旋パレードなどがあったせいでニュースはずっとワールドカップ優勝関連ばかりだった。14日の軍事パレードでは、赤白青の三色を空に描くはずだった飛行機がガスを積み間違えて青の一部が赤になるという珍事(北朝鮮だったら大変だ)があったけれど、16日には、しっかりとトリコロールの筋が凱旋門の上に描かれた。

近年、フランス人が大通りを埋め尽くすというのは2015年のシャルリーエブドのテロの後の表現の自由のでも、去年の暮れのジョニー・アリディの葬儀など、いずれも「喪」にまつわるものだった。ジョニーのファンなどは、トランプの支援層のような保守的なリタイア層が目立っていた。

今回は、「世界チャンピォン」という「慶事」で、しかも若い世代が大活躍(アルゼンチン戦で活躍した22歳のバンジャマン・パヴァールの出身地は私にとってフランス屈指の思い出の町でもある)ということで、明るく希望に満ちたもので喜ばしい。

98年に掲げられたのが「ジダン、プレジダン(大統領)」と脚韻で、今回は
「リベルテ(自由)、エガリテ(平等)、エムバペ(19歳のスター選手)」という共和国の標語の脚韻になっていたのもほほえましい。

後、テレビのコメントで、ナショナルチームのヘアスタイルがみな一様に「普通」になっていたことが言及された。

サッカー選手はユニフォームで戦うが、ヘアスタイルは奇抜な人が多い。まるでヘアスタイルで個性や自由を表現しているようだ。
それが今回のフランスチームは全員、「普通の髪型」に代わっていた。
フランス人が監督の命令に従ってそんなことをするとは思えないから、これは自発的としか考えられない。
それが、すべての個性や自由はスタジアムで発揮するという今回のチームのマインドの現れだというのだ。

確かにデシャン監督は、個性的でエゴの勝ちすぎるスター選手たちを外した。
それでもポグバのように羽目を外す選手はいたのに、今回は全員謙虚で落ち着いていた。ヘアスタイルはその心境をものがたっていた、という。

そういえばそうだ。日本で言えば日本人選手が全員黒髪の短髪にそろえているようなものだ。今では奇抜なものが普通になっている。

団体競技が外からの圧力でなく自発的な一体感と自由の落としどころを見つけると、強さが発揮できるのだろう。98年はフランスチームが多様でも他のヨーロッパチームは白人ばかりだったけれど今はベルギーやドイツのような国も移民出身の選手を擁していていたのも時代が変わったとおもわせることだった。






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by mariastella | 2018-07-17 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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