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L'art de croire             竹下節子ブログ

ワールドカップから宗教を考える

ロシアのサッカー・ワールドカップで優勝したフランスチームは、カトリック雑誌からも「祝福」された。

「移民」出身が多いフランスチームは「六番目のアフリカチーム」などと揶揄されたが、選手たちが「フランス人」であること、それは普遍主義的共和国理念によって結びついていることと同義であると、しっかりとチーム全体で反駁していたのは好感が持てる。

カトリック雑誌もそれを踏襲している。


オリヴィエ・ジルーの腕には詩編23のダビデの賛歌「主は羊飼い、私には何も欠けることがない」というタトゥが刻まれている。

ワールドカップから宗教を考える_c0175451_00364329.png
ジルーは優勝したら頭を剃ると言っていたらしいが、7/22に三男の洗礼式があるので取りやめたという。

アントワーヌ・グリーズマンも右肩のイエスや聖母マリアのタトゥがある。教会で定期的に大蝋燭を供えるそうだ。

ポール・ポグバは規律を守るイスラム教徒。

スタジアムへの出入りに必ず十字を切るブレーズ・マチュイディはパリ・サンジェルマン・チームの元同僚で福音派キリスト教牧師のブラジル人マルコス・セアラから洗礼を受けている。


スポーツ選手にとっていろいろなジンクスが必要なのは分かるし、それぞれ「信じる」ものがあるのも不思議ではない。どんなに自力で努力しても、「勝負の神」の機嫌はまた別にある。


で、フランスチームがまとまっていたのは、それぞれがそれぞれの「信心」に堂々と従いながら、互いをリスペクトし、その上位に「フランス万歳、共和国万歳」を自覚的に掲げていたからだという。


フランスでは、大統領はもちろん、極右から極左まであらゆる大統領候補は公式のスピーチの最後を「フランス万歳、共和国万歳」で締めくくるのが習慣になっている。だからこのフレーズはフランス人にはなじみがある。


これさえ唱えていれば、「フランス人」認定と言ってもいい。そしてその「共和国理念」は自由・平等・同胞愛を普遍原理とするものだ。

同胞愛というのは「友愛」とも訳されるが、「きょうだい愛」であるが、別に血縁のことを言っているのではない。そこに「親」はない。つまり父権的関係を拒否してみんなきょうだいということで、「平等」とセットになっている。

なぜ親がないかと言えば、この「理念」がキリスト教由来のもので、親は創造神だけで、すべての人間は「同胞」でしかないからだ。

共和国主義はこの「見えない神」を「ないこと」にして成立したけれど、逆に、この「共和国理念」そのものを、「超越神」的に掲げてきた。

成り立ち上、それは「民族神」ではなく「普遍」神なので、肌の色や出身や宗教帰属や政治的立場の差を超えているというわけだ。


フランスチームのことをアフリカだと言って揶揄したのはイタリア人で、イタリアは今右傾化していることもあり、ナショナルチームにも「純粋」を志向する。

20年前にフランスが優勝した時は「白、黒、アラブ」と言われたが、他のヨーロッパチームはほとんど地元の「白人」だった。

今回のフランスは、「白、黒、アラブ」でなく「青、白、赤」の三色と言われる。もちろん共和国の三色旗の理念を表しているのだ。


20年経てば、他のヨーロッパチームにも「移民出身」選手が目立つようになってきた。

でも、ドイツチームのトルコ人選手は、ドイツが敗退したとたんに差別言辞を浴びせかけられた(まあこの選手はトルコのエルドガン大統領を支援しているかのように政治利用されているから複雑なのだけれど)。

イングランドチームは、大英帝国っぽく、自分たちの多様性を誇っていたが、「あ、うちは出自や宗教などは多様だけれどカルチャーは一つです。イングランド文化だけです」とイングランド人がテレビで協調していたのは興味深かった。

前に、「クリケットをする国出身ならイギリス人認定」という記事を書いたが、 そういえば、サッカーもイングランド起源だよなあ。

で、「イングランド文化」と自称すること自体が、すでに「普遍主義」の対極にある。


全く別の話だけれど、最近の、タイの洞窟からサッカー少年たちとコーチが国際的な支援を受けて救助された事件を覚えているだろうか。


体力の回復した少年たち12人とコーチが7/25から見習い僧として、剃髪して、地元の寺で修業を開始したそうだ。

救助活動への感謝と救助中に亡くなった人の冥福を祈るためだという。

一生に一度は短期出家が推奨される小乗仏教の国だし、こうして共にトラウマを克服していくシステムがあるということ自体は悪くないと思うけれど、今回、少年12人のうち一人がキリスト教徒なので参加しないという。

タイでキリスト教徒なんてかなりマイノリティだ。

でも宗教と関係なくサッカーというスポーツを通して結びつき、洞窟の中でもその団結や一体感が支えになったからこそ、一人も欠けることなくみんなが生き延びることができたのだ。

で、そのアフターケアが突然、特定宗教の「伝統」とは。


他の少年たちが「短期出家」というセラピーから戻ってきた時に、このたった一人の「キリスト教徒」の少年は、またいっしょにサッカーを続けられるのだろうか。彼は彼で、「教会」の共同体からスピリチュアルなケアを受けているのだろうか。


なんだか気になる。


by mariastella | 2018-07-30 00:05 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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