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L'art de croire             竹下節子ブログ

ジャン=マリー・ブロームのスポーツ政治社会学 その5

---右派も左派も一致してサッカーのチャンピォン礼賛に参加しています。

そこに疑問を発するあなたは、共産党や進歩主義者たちからの攻撃を受けていますね。

ワールドカップに感情移入しない人は、エリート主義だとかインテリ主義だとか言われて攻撃されます。スポーツのエンターテインメントに向ける大衆の中毒状態に対しての批判は少なく、極左政党のメランションでさえサッカーの贔屓チームを応援するツィートを流しています。


JMB :68年五月革命の後に続いた時期には、今私の言っているようなことは当然の考えでした。知識人はマルクーゼ、ライヒ、フロム、アドルノらのフランクフルト学派や、カストリアデスのようなシチュアシオニスム派から影響を受けていたからです。

けれども今は、資本主義を否定する政治的力はどこにもありません。スポーツ批判だけでなく、もっと深いところで価値が反転しました。

今や左派の一部はイスラム主義者となりイスラム・スカーフを擁護し、別の一部はマドゥロやプーチンのような独裁者を指示しています。40年前には考えられなかったことです。


スポーツのイデオロギー性はもはや思考の対象にはなりません。それどころか、学者もジャーナリストも政治家もみんな嬉々としてサポーターと一緒にカメラにおさまります。私は試合を観にいったことがありますが、上半身裸のサポーターがアルコールのにおいを芬々とさせてヒステリックにわいせつな言葉を敵に投げかけていました。それなのに、民俗学者や社会学者やジャーナリストは声を合わせて、サポーター文化は「共生」「連帯」の素晴らしいモデルだなどと言うのです。

スポーツにかこつけてスタジアムで絶叫する一種の暴動状態は群居の最悪の形です。

極左のメランションは自分の批判している社会の金融支配がスポーツに浸透していることを知っている。サッカーの有力クラブはロシア、中東をはじめとする財閥やマフィアに牛耳られていることも、サッカー協会やオリンピック委員会が汚職スキャンダルがあり、ロシアの国がらみのドーピングがあることも知っているのに不問に付し、「スポーツ界が腐敗していることは承知している、しかしなんといってもポーツは大衆文化だからね」などと言っているのです。


今の支配的な考え方はこうです。


スポーツは、若者に、経済に、健康に、市民の自覚にも、有用である。


「スポーツは善である」というこの前提があるからこそ、スポーツ界の暗黒面を暴露しようとする人がいると、団結を乱す、虚無主義者だ、物事の否定的な面しか見ない偏向だ、などと、「スポーツ」利権の番犬たちがいっせいに吠え立てるのです。

考えることを封鎖する同調主義が支配します。


1980年代から進んだこのような批判精神の衰退、イデオロギーと政治意識の大幅な退行こそが、今のスポーツの阿片的偶像崇拝の基盤にあるのです。

1978年のアルゼンチンでのワールドカップの時、ビデラの軍事政権に異議を唱えてボイコットを呼びかける人々の運動は無視できないものでした。けれども今のは人々が本気で憂うるのはネイマールの足首の具合なのです。



Sekko : ううん、これほど堂々と意見を述べちゃっていいのだろうか、と心配になるくらいだ。

私には「旗色を鮮明にしない」ことでコンフリクトを回避するという卑怯な姿勢があることを自覚しているので、こうはっきりと「主流秩序」に都合の悪いことを言い切る人を尊敬してしまう。

巨大産業になるようなプロスポーツとはすべての面でほとんど縁がないけれど、「スポーツは有用である」、だから善である、みたいな言説には、これまでいろいろ疑問を投げかけてきた。


『カルトか宗教か』(文春新書)では、「健康カルト」について書いたし、『陰謀論にダマされるな!』(ベスト新書)では、代替医療やスピリチュアル系言説と終末論言説の語りの構造がパラレルであることを書いた。


適度なスポーツが心身にいいことや子供や若者に必要なことは分かる。


でも、「スポーツは、若者に、経済に、健康に、市民の自覚にも、有用である」。だから善である、というイデオロギーは、若いこと、経済が順調であること、健康であること、市民の義務を自覚すること、などなどがそのまま「善」であるというのにつながる。

だから、障碍があっても、高齢であってもスポーツをする人は「偉い」。

若くなく、貧乏で、病気で引きこもっているのは「悪い」。

こういう空気が醸成される。

そこに、個々人の健康長寿や資産形成などがそれこそ一種の競技のように「勝ち負け」感を生むとしたら…。根本的な何かが違っている。


かといって、美容や健康のために奔走している人たちを横目で見て、「あいつらはただのエゴイストだ、私はもっと世間にとって有用なことをしたい」と言い切るような自信もない。

ジャン=マリー・ブロームのような人が言葉にしてくれること、それを目にすることができてありがたい、という気持ちだけは、確かに、ある。


by mariastella | 2018-08-13 00:05 | 雑感
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