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L'art de croire             竹下節子ブログ

アドルノとプラトンとクラシック音楽の憂鬱

アドルノの本を読んだのは初めてではないけれど、今読んでいる『音楽のフェティッシュ性』は、なんだか、言われていることがいちいち身に染みる。プラトンやカプチン会の音楽観についても考えさせられることが多い。

プラトンの『国家』のⅢ, 398-399の前後をつくづく読み返してしまった。

ここで引用しようとして日本語のネットで検索したら、『国家』の全文をネットで読めるサイトや論文が私には見つからなかった。フランス語ではネットで注付きの全文がいくらでも読めるのに…。

プラトンにおける「体育」の問題はこの前に書いたスポーツ社会学とも呼応する。

プラトンってここだけ読むとセクシストのタカ派だなあ。(「軟弱で卑怯な男」と「普通の女」が等しいとか言っているし)

で、アドルノのプラトン論については別に書くことにして、今回最初から身につまされたのは、「クラシック音楽」という名前が「野蛮だ」とアドルノが言っている部分だ。

アドルノは、人々がある音楽のことを「好きだ」というのは、「あ、これ、知っている」ということに等しい、という。

人は「知らない」ものについては「好き」になれない。宣伝やら評判やら実績やら曲の切り売りによって「すでに見聞きしている」音楽を人は「好き」になる。

で、そういう「消費財」として生産される時代以前の音楽を、「商品」として「産業」として流通させるためにできたのが、「クラシック音楽」というブランドだった。

「消費財としてつくられた音楽以外のもの」が「クラシック音楽」というレッテルの陳列棚に置かれたわけだという。

本当は、バッハやモーツアルトの音楽は、何百年も前の音楽ではない。今、あなたが、誰かが、あなたの目の前で演奏した時に顕現する「いつも生もの」の音楽だ。

それなのに、人々は、バッハやモーツアルトの評判や、演奏者の評判や、聴きなれた曲名や曲の断片があるから、それを頼りに、演奏会に行ったり録音を購買したりして、「クラシック音楽ファン」になる。

私たちでさえ、もし私たちが、たとえば

「トリオ・ニテティスがシャルル=ルイ・ミオンの『優美な四季』の曲を弾きます」

といったら、「それ、何?」であり、誰も耳を傾けてくれないのは明白だ。

「正五度にカスタマイズしたクラシックギターのトリオが、18世紀フランスのバロック・オペラバレエからサラバンドを演奏します」

と言えばやっと、関心を持ってくれる人もわずかながら現れる。

人々がすでに「知っている」カテゴリーに落とし込むことで、唯一「売れる」可能性が生ずるのだ。

「消費財」として「商品」として作られず流通しなかった音楽は、今も古びることのない「生もの」であるにもかかわらず、「クラシック音楽」だの「バロック音楽」だのというレッテルをいただいてはじめて消費者の目につくかもしれない棚に置いてもらえる。それもどんどん「品薄」になって、「知名度」の高いスター歌手やグループや演奏者の名の付く「棚」とは比べ物にならない。

私たちがミオンの音楽に魅せられたのは、まず、わずかにヴァイオリン曲に残っていた「楽譜」との出会いだった。

その後、オペラ座図書館で発掘した楽譜を弾き起こした時の感激は忘れられない。

私たちが能楽奏者と共演できたのは、そういう「消費財」の「流通」とは別世界にあって、古典芸能、伝統芸能というレッテルをもらうことで存続しているものと通底している本質的な何かがあるからなのだろう、とあらためて思う。


(この記事を書いたすぐ後で、ネットの日本雑誌を見ていたら、フランス映画の『メロディー』が『オーケストラ・クラス』というタイトル(なんだか、「みんなで一致してがんばる」という雰囲気が強調されたタイトルだなあ)で8/18 から公開とあった。それに合わせて、前にコメントしている記事のタイトルも変えておいた。今読み返してみると、この映画で、教師が実際に曲を弾いてみると子供も大人も例外なく感動するという部分が、まさに、音楽が「生もの」であり、クラシック音楽というカテゴリー分けが恣意的だと分かるいい例だと思う。)


by mariastella | 2018-08-23 00:05 | 音楽
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