L'art de croire             竹下節子ブログ

フォルカー・シュレンドルフの話を聞いて

先日、『ブリキの太鼓』で有名なドイツ人映画監督フォルカー・シュレンドルフがテレビで話していたのを聴いて感銘を受けた。彼はもう79歳になる。 完璧なフランス語で話すが、10代の頃に一家でフランスに移住して経済学や政治学の後に映画も学んだのだから当然だ。

彼のことは前にも書いた。


でも、この時はラジオで話を聞いたのだけれど、今度はテレビだったので、やはり映像の力は大きい。人柄まで伝わってきそうだ。

今回は、ヨーロッパ諸国で高まる反移民感情についての意見を述べていた。

移民、難民に広く門戸を開けると言ったメルケル首相が批判され、ドイツでは右派が台頭し、ネオナチや移民排斥運動が目だつようになっている。

これに対して、シュレンドルフは、いくら右派が20%以上といっても、自由と平等を信じる70%以上いるのだから、いたずらに恐れてはいけないというのだけれど、その前に、興味深いことを言った。


ホロコースト、ナチスを生んだのはドイツのカルチャーであって、今はそれに対する反省や批判があるといっても、カルチャー自体はそのまま残っている、だからいつまた同じようなことが起こるかは分からない。だから心して自分たち自身を監視する必要がある。


という意味のコメントだった。

このことは、先日の記事で書いた、ヨーロッパにおける「非白人植民地国」への差別が、理論的には反省され、糾弾されているとしても、これまでの長い歴史の中で「民衆カルチャー」として刷り込まれてきた偏見という下部構造は残っている、そこまで掘り下げないと、真の「平等」はあり得ない、という見解に通じる。


ホロコーストへの反動で、罪悪感に苛まれる世代もあったけれど、ドイツのカルチャーは変わっていない。もちろんそのカルチャーから必然的に同じ逸脱が起こるというわけではないが、悪魔が天使になったわけではない。逸脱がどこでどのようにして起こったのかを知り、同じ道をたどらないように常に自覚していなくてはならない。

こう言われると、なんだか、今の日本で目立ってきている排外的言辞やヘイトスピーチなども、少数の例外的な逸脱などではなく、過去の日本を戦争に追いやった全体主義的カルチャーが、実はそのまま残っているからなのではないかと思ってしまう。カルチャー、伝統や、それを支えてきた体質や気質はそう簡単に変わらない。

特定の時代の状況やプロパガンダだけのせいでなく、それを可能にしたベースが常にあるとということだ。

いや、ドイツや日本だけではなく、独善主義や覇権主義への指向性というのは、多くの国、多くの人の中に根付き、痕跡を残しているのかもしれない。自分自身を含めてつくづく思う。

(もっとも、私のような「力」志向のない人は、欺瞞や偽善の方に向かうのだけれど、それはそれで、よほど気をつけないと結果的に全体主義の共犯者となりかねない…)


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by mariastella | 2018-10-07 00:05 | 雑感
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