L'art de croire             竹下節子ブログ

『I feel good』KERVEN et DELEPINE(ブノワ・ドゥレピーヌ、ギュスタヴ・ケルヴェン)

最近、わざわざ映画館に行って当たりはずれのない時間を過ごせるのは、アニメも暴力シーンもホラーも避けている私にとってやはり「社会派映画」ということで、『I feel good』(KERVEN et DELEPINE) を観に行った。何よりもジャン・デュジャルダンにヨランド・モローが姉弟というキャスティングに惹かれた。この二人の監督に寄せる役者たちの信頼がうかがえる。

アベ・ピエール神父の始めたエマウス共同体のワークショップでリーダーとして働く姉と、一獲千金を夢見る弟の話。

私はこれまで地方のエマウスに行ったこともあるし、ドキュメンタリーも見たことがあるけれど、この映画の舞台となったピレネーのエマウス共同体は、住居部分が不思議の国みたいなユニークさで、エキストラはみなエマウスで働く人たちだ。アトリエの様子も、あふれるモノのインパクトも、この映画ではじめて知った。

日本にもエマウスがあるけれど、エマウスワークキャンプなどの活動はむしろ縮小しているようだ。フランスのように移民や難民や不法滞在者や失業者が多い国ではなく、見かけが「日本人でない」と目立ってしまうし、ホームレスの非正規雇用が中途半端に機能しているからなのだろうか。また、アベ・ピエールの呼びかけが1954年に厳寒から始まったように、緯度的に言って、関東や関西の大都市がパリなどより温暖だからだろうか。

行き場のない元受刑者に、アベ・ピエールが「私を助けてくれないか」といって始めた活動だけれど、今は、大半がシングルの「失業者」であることが分かる。誰でもエマウスに行けば、出自も過去も問われずに、すぐに何らかの仕事を割り当てられて、わずかな給料、住むところ、食事を保障される。知的や精神的な問題を抱えた者、さまざまな発達障害をのり越えられなかった者も少なくない。けれども、ここで、連帯とは何か、生きるとは何かを見つけて、金に支配されている過酷な外部の社会から隔離された一種のユートピアを形成しているのだ。

とはいっても、カラフルなプラスティックのストローやスティックの山が持ち込まれ仕分けされるのはエコロジーにかなっているし、ずらりと並んだピアノだとか、あらゆる種類の衣服だとか、アンティック家具があふれる様子、それを修復しリサイクルし、デパートのバーゲン会場のように人々が押し寄せる目当てのものを見つけに押し寄せる光景は、たとえば自給自足の修道院だのエコロジストの目指す田園生活などとはかけはなれている。

物量そのものが共同生活を支えるというシュールな不思議の国だ。

その共同体でリーダーとして信頼を得ているのがヨランド・モローの演じるモニックで、そこにある日、タラソテラピーの無銭利用で逃げ出してきたガウンとスリッパ姿の弟ジャックがやってくる。

このジャックが、なんだかもう生まれつきの虚言癖の詐欺師という感じの男で、働かないどころか、「ルーマニアで格安の整形手術をすれば人生が変わる」というキャッチフレーズで「I feel good」というスタートアップを立ち上げて、こともあろうに、エマウスで働く人々を「勧誘」するのだ。騙す才能はありそうなのだけれど、本気でビル・ゲイツになれると信じているところは、知的な問題があるのか現実逃避なのか「病気」なのか区別がつかない。エマウスでならいくらでも調達できるスーツなど着れば、有能なビジネスマンを騙れそうなエリートっぽい外見は、髪を振り乱して働くモニックとは似ても似つかない。

モニックは、そのジャックがエマウスで働く人々の心を乱していることを知っても彼がとても「幸せそう」なのではじめは黙認していたけれど、ついに、「あんたは病気だ」と言って医者に連れていく。でも、彼女の知っている医者というのは彼らが子供の頃に通っていた老小児科医だけだ。

このシーンで、ジャックはもともと「多動症」でリタリンを処方されていたとかモニックは躁うつの傾向があったことが分かる。

彼らの両親が貧しい工場労働者で共産党員として組合活動をしていたことも分かる。

この両親の遺灰を両親から受け継いだ乗用車の中に保存しているモニックはジャックが両親の葬儀にも戻らなかったことを恨んでいる。

誰がどう見ても、ジャックがひどいやつで、モニックがかわいそう、エマウスでそれなりに生き甲斐を見つけていた人々は被害者、という構図で、しかもそれが、カリカチュアになる一歩手前の過激さでカタストロフィに向かってたたみ込まれるので、なんだかもう見ているのが苦しくなる。


けれどもカタストロフィに向かう展開が、突然、これもシュールなロードムービーになっていて、ブルガリアの社会主義時代の大規模施設の廃墟などの映像はインパクトがある。

ところが、モニックが整形手術を受けている最中という最悪の段階になって、あっという間に事態が急転する。

しかも、二転三転する。

「見た目が変わればI feel goodとなって人生が変わる」というテーマが、社会派コメディ、エマウスの精神に見事に合致するラストになる。

でも、すべてがあまりにもスピードがあって破天荒なので、「ああ、もちろん社会派コメディだからこういうハッピーエンドになるよな」というお約束感などない。

こちらもハッピーになれる。しかも、笑える。

笑わせて意思表示するというのは最強だ。(そういえばローマ教皇も大切なのはユーモアと言っていた)

このテーマを描くのにこのようなユニークなシナリオを書き監督したKERVEN DELEPINE(ブノワ・ドゥレピーヌ、ギュスタヴ・ケルヴェン)に感心する。

この2人の作品は、日本では2011年のフランス映画祭で『マムート』が上演されているようだ。(この映画もおもしろかったのでコメントが残っているはずだと思ってブログ内検索をしたのだが、見つからなかった。不思議だ。)


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by mariastella | 2018-10-12 00:05 | 映画
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