盲腸記 その1これを書いているのは虫垂炎の緊急手術をして退院してからまる1週間経った時点(11/26)だ。 それがどうして起こったかについてはすでに病室で「健康ブログ」にアップし始めた。 フランスでの大学病院事情を報告しようと思ったので、そっちも並行して続ける予定。
で、その数日のうちに実に興味ある社会観察ができたし、出会いもあり、多くのことを考えたので、それを忘れぬうちに書いておく。 で、このブログでのこのシリーズのタイトルを「盲腸記」としたのは、今回の件で日本語では「盲腸」が死語になっていることを知ったノスタルジーからだ。 私のことだから、日本のブログでいろいろ検索したら、その中には、病院で「あなたは何の病気で何の手術をしますか」と「確認」を取られる時に、「盲腸」と答えると患者として「下位」にランクされるのでちゃんと「虫垂炎」と答えなければならない、という記事を目にしたことに驚いた。
うーん、1950年代前半生まれの世代としては、健康ブログの方にも書いたけれど、「盲腸」と言えば、「スイカの種やらブドウの種を食べるとそれが詰まる」という伝説の他、時々クラスの誰かが一週間くらい欠席する病気で、「手術」「手術後も笑うと痛いので笑わせるとダメ」「ガスが出ないと退院できない」というくらいの、半世紀前の「知識」しかなかった。 幸運にも、これまで自分自身も身近な家族も「切る」手術を経験したことがなかった。 今思うと、「笑うと痛いから笑わせるな」とか「ガスが出ないとダメ」とかいうのは、別に「盲腸」の手術だけではなく、開腹手術一般だと思うけれど、子供たちがわりと普通に「病気になって学校を休んでそして元気になって戻って来る」と認知している「病気」の治療に薬だけでなく「手術」があったということにもあらためて驚きだ。
それにしても、「盲腸」。
フランス語ではappendice、虫垂炎がappendiciteというのだけれど、この単語は、日本にいた頃の私の語彙にはなく、ソルボンヌのフランス語講座に通った頃にはじめて習って強烈な印象を残してその場で覚えた単語だ。先生が黒板に書く文字まで覚えている。
なぜこの単語かというと、フランス語は英語と違って、単語の綴りと発音が大体規則正しいので、「例外」を覚えさせられるからだ。
フランス語のen は鼻母音の中でも、カラスのカアーという感じで口を大きく開けて息を鼻から抜いて発音する。それに対して in は、口を横に引っぱって「エ」という形で息を鼻から抜く。どちらもカタカナでは「アン」と書かれたりするのだけれどまったく違う音で、cent とcinq (最後の子音は発音しないのでどちらもサン)では、100と5という大差の数字。 で、なぜか、盲腸はenと書くのにinと同じ発音、ということで、ソルボンヌで教えてもらったわけだ。
今回の「事件」で私は周りのフランス人にこの発音の例外を披露したら、みなあまり意識していなかったらしくて、「あ、ほんとだ」などと言っている。 もっとも近頃は、綴りと発音を一致させようという簡略化が公式に進んでいるので40 年前にフランス語の難問書き取りの達人だった私も、実はもう何が何だか分からない。 それに携帯やネット上のやりとりが蔓延して、もう「綴り?それが何か?」みたいな時代に突入している。
でも、今回、フランス語でもあらためて検索すると、appendice の綴りはめでたくappendice のままだった。語源的には「垂れる」「ぶら下る」だから、もともと「虫垂」に近い。 では、今回、日本で、「虫垂」が炎症を起こして「盲腸」になる、という表現が昔使われていた、という情報をあらためて考えると、盲腸とは、「大腸の一部で、小腸との接合部より口側(肛門から遠い側)の盲端部分」という定義がちゃんと存在する。 フランス語でもあって、やはり「盲」という語源。うーん、日本も欧米語から訳したものの最近「盲」という言葉自体が避けられているからだんだん使われなくなったのかもしれない。 もちろん、正確には盲腸があって、その先に虫垂が垂れているという感じなのだけれど、ともかく炎症を起こすのは「虫垂」、切除するのも虫垂。(しかし、「虫様突起」ってなんか嫌だなあ。)
いや、前振りが長くなって、ただの雑学披露になってしまった。
ともかく、日本と違って、半世紀前に習った「言葉」がまだちゃんと現役で通用したことに感謝しよう。
by mariastella
| 2018-12-27 00:05
| フランス語
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