今回の「黄色いベスト」運動は、組合や政党に利用されたくないという姿勢が最初から一貫していた。地方の中間層の多くが貧困層に転落したのは彼らの期待を裏切ったマクロンのせいだけではなく、ここ30年以上続く与野党交代も含めた歴代大統領の無策のせいだ、という合意があるからだ。
といっても、野党や各政党はなんとかこの運動を「利用」しようといろいろなコメントを出しているわけで、それをまた揶揄する芸人らのコメントもおもしろい。
傑作だと思ったのは12/11朝のラジオで人気の物まね芸人カントゥルーがサルコジの声色で出したコメントだ。以下、要約。
>>>私は高級時計店が襲われたことにショックを受けた。気の毒だ。
(8日に襲われて時計店の主人は届け出を出した「武装」をしていて、ショーウィンドーを割って侵入する暴徒を威嚇し、略奪は免れた)
インタビュアー「そうですね、店主は大変な思いをしました」
>>>いや、私がかわいそうだと思ったのは店内に陳列されていたローレックスだ。
侵入者を前にしてあんな目にあってトラウマになったに違いない。
ローレックスと言えばスイス。
言ってみればスイスからやってきた移民みたいなもの。
移民のローレックスのみなさんをトラウマを受けたままにしておくのはしのびない。
フランス人の各家庭で一つずつ迎え入れるべきではないか。
だって。
笑える。
サルコジと言えばそれこそ、ローレックスの愛好だけではなく、アメリカの富裕層のヨットでバカンスに出かけたり、移民の地区をゴミ扱いにしたり、あからさまな「金持ち」優遇の大統領だった。
それなのに、今思えば、家系に苦しむ庶民層から、それほどには嫌われていなかった。
貴族とはいえハンガリーからの移民の父、ユダヤの血も引く母がいて、3度も結婚するけれど、大統領時代に結婚したカルラ・ブルーニとは小柄であることをからかわれて「白雪姫と小人」のようなカリカチュアを描かれたり、その前のセシリアに捨てられた時には嘆きを隠さなかったりで、セレブ好き、贅沢好きも含めて、フレンチエレガンスの対極にあった。
だからいくらでも突っ込まれたし、逆に庶民のあからさまな夢を代行しているような部分もあって、そもそも裏切りが怒りを招くほどの信頼を勝ち得ていなかったのだろう。
それに引き換えマクロンは典型的な「優等生」で、女性関係も高校生の頃から24歳年上のブリジットさんひと筋という珍しさ。投資銀行で活躍していたのに政治家に転身し若くして社会党政権で抜擢され、保守と革新を統合した中道を掲げて30代で大統領の座にのぼりつめるという異例のキャリア。理解できない例外的な存在だったからこそ人々に「幻想」を抱かせたともいえる。
彼のような人には「下流の人々」の暮らしや日常感覚は見えないし絶対に想像がつかないだろう、というのは、分かる。ブルジョワ都市の市長だったサルコジは別として、多くの大統領が地方政治を経て、地方の庶民と接する体験から社会の実態をいろいろ学んでいるのとは明らかに違う。
この40年にフランスに起こった変化を歴代大統領のプロフィールと共に振り返ると、日本とのメンタリティの違いというものが別の形でいろいろと浮かび上がってくる。