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L'art de croire             竹下節子ブログ

クリスマスマーケットのテロ (追記あり)

予約投稿の続きものを中断して、12/11に起こったストラスブールのクリスマスマーケットのテロのことを書く。

11日の19h50に29歳の男が観光客も含めて賑わうクリスマスマーケットで銃を撃ち、3人死亡(追記 : 12日夜の情報では、うちひとりは頭を撃たれた脳死状態だそうだ。 14日には4人死亡、8人負傷となった)、8人重傷、5人軽傷だそうで、その後タクシーを強奪してドイツ方面に逃げ(追記 : その後の情報によると、強奪でなくタクシーに乗って地元のあたりで降りたのだそうだ。タクシーの運転手に人を10人は殺したばかりだと言ったらしい。運転手はムスリムだったので助かったと言い、後で警察に通報した)、これを書いている時点(12日の朝)では捕まっていない。

(追記 : 犠牲者の一人はタイから来た観光客の男性で、「パリは怖いからパリから遠い所へ観光に行くから大丈夫」と家族に語っていたそうだ。これも、まるでシャンゼリゼがいつも内戦状態みたいなニュースの流れ方がしていたせいだろう。もともとストラスブールとその近郊にはフランス中の過激派要注意人物リストの10%が住んでいて、クリスマスマーケットは「アラーに背く行為」というコメント付きで過激派のビデオにも流れていた。ストラスブールのカテドラル襲撃計画が事前に阻止されたこともある。でも、イスラム過激派にとっては、宗教の問題というよりも、ともかく、パリのテロでも明らかにされたように、人々がカフェやコンサートで楽しんだりお祭りをしたりすること自体が制裁の対象になる。)

20hにはTVのニュースを見ていたが、その時点ではテロの情報確認のためか、まったく触れられていなかった。10日のマクロンの演説の分析や「黄色いベスト」の反応がほとんどだった。
何しろ10日のマクロンの演説は歴代大統領の演説生中継の中で視聴率が断然トップだったという。2位が、2015年1月のシャルリ―エブド襲撃テロの直後のオランド大統領の演説と2007年3月のシラク大統領のサヨナラ演説が並んでいる。

これらがいずれも今年のサッカーのワールドカップでフランスが優勝した決勝戦の視聴率を上まっているのだから、フランス人って、エリゼ宮から発せられる「僕たちの選んだ王さま」が直接声をかけてくれる演説がどれだけ好きなんだ、ということが分かる。だからこそ、マクロンが自分が任命した首相に任せてなかなか表に出てこなかったのが怒りに油を注いだんだなあ。
民主主義の危機、政治の民主主義だけではなく社会民主主義、経済民主主義の危機だと認めてもらったことで怒りが少しおさまった感はある。

で、「黄色いベスト」運動について何度かこのブログで書きながら、私は「でもテロの恐怖よりずっといいや」と思っていた。狙われるのは警察や政府関係の場所やブティックで、場所も限定されているから「普通の人」が巻き込まれることはまずない。2015-16年にかけての無差別テロの恐怖と比べればまったく種類が違う。
それどころか、「黄色いベスト」運動のおかげで、「イスラム過激派」やそのシンパは影を潜めた感がして、イラクやシリアのISが掃討されたこともあり、例の2024年のパリ・オリンピックに向けて「テロはアンダーコントロールね」というので、ああ、オランド大統領時代のテロは終わったのかという単純な安心感が少しはあった。
去年まではクリスマスシーズンになると、2016年のベルリンのクリスマスマーケットのテロの記憶も生々しいので、教会やカテドラルのそばに行くのもなんとなく怖かったのだけれど、今年は「黄色いベスト」だから、彼らもクリスマスは家族で楽しむはずで、楽勝だなあと思っていた。

それに加えてテロの緊急事態宣言以来、諜報技術も高まり他国との連携も緊密になって、テロ計画の事前発覚と逮捕というのが増えていた。問題は、ISにインターネットなどで煽られた個人が過激化して地元でテロにはしるという予測のできないケースだけれど、それはそれで怖いとしても、アメリカでテロよりも頻繁に起こる「拳銃乱射事件」のニュースを聞くにつけて、リスクはアメリカよりも低いしなあと思っていた。

でも、今回のテロリストは、2015年に話題になった典型的なタイプで、2015年の同時多発の連続テロのテロリストもストラスブールの「イスラム過激派地区」に滞在していた。29歳の男もその地区出身の住民で、はじめはさまざまな空き巣などの犯罪に手を染めて何度も刑務所に入っている「移民地区のよくある犯罪者」だったが、最後に刑務所にいた2015年に刑務所の中でイスラム過激派に「洗脳」されたというお決まりのケースとなった。で、インターネット閲覧履歴などから、イスラム過激派警戒の要注意人物として登録されてはいたのだけれど、そんな人物はたくさんいるので、終始見張られているわけではない。組織的でなく単独でテロをやろうと思えば成功する率は高い。

今の時点で彼の名は発表されていない。捜査の効率を高めるためだそうだ。

このことで「黄色いベスト」運動一色だったメディアが一斉にテロ報道で埋まり、「イスラム過激派がキリスト教のクリスマスを狙う」という、今となってはなんだか少し懐かしいような構図が再び浮上した。

だから「黄色いベスト」の中には、「もうこんなことやってる場合じゃない」、とクリスマスを年一度の家族の集まりとして楽しむ「普通のフランス人」に戻ろうとする人、それでなくともプロの壊し屋が混ざるせいで「暴力」のレッテルを貼られるのが遺憾なのにテロとも比べられると困るという声が増えてきた。

同時に、こういうクライシスには必ず登場する「陰謀論」も現れている。

つまり、政府が「黄色いベスト」運動から注意をそらすため、収束させるために、ストラスブールのテロを利用している、というものだ。

(追記 : 利用したというより事前に知っていた、というもので、カリフォルニア発のツイッターの時差を根拠にして広まった陰謀論だったそうだ。メディアはすぐにこれを検証してフェイクを照明した。陰謀論がこんなに早く芽のうちにつまれてしまうのは珍しいが、それでもフェイクはこの後もひとり歩きするかもしれない)

それにしても、11月半ばから続く不穏な空気がマクロンの「謝罪」ポーズでようやく落ち着くかという時、遅らせていたクリスマスショッピングにこれから精を出す、と人々が語り出した時になって、再びテロ、しかもフランスで最も有名な「クリスマスマーケット」のテロということで、ああ、中東の危機は収束などしていないのだなあという現実をつきつけられる。
難民に関するマラケシュ合意やヨーロッパ諸国の右傾化などに対してEU理念を掲げて戦おうとしているマクロンの立場は困難を極める。
中東だけではなく、フランスが派兵しているマリやニジェールの情勢も膠着状態だ。

平和とは、リビングの真ん中でデコレーションが点滅するするクリスマスツリーの周りで完結し味わえるようなものでは、ない。


by mariastella | 2018-12-13 00:24 | フランス
<< 暴力による「政権取得」は功を奏... 黄色いベスト運動とフランス革命 >>



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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