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L'art de croire             竹下節子ブログ

「黄色いベスト」運動と沖縄

これを書いている時点(12/14夕方)、火曜日にストラスブールのクリスマス・マーケットを襲ったテロリストはまだ捕まっていない。
(13日付の私の記事にはその後の情報を追加して訂正した「追記」があるので確認してください。)

昨日の夜のニュースでは、テロリストが腕を負傷していることもあり、ドイツに逃げたのではなく地元の過激派地区に隠れているのではということで、捜査の方法が少し変わったようだった。

ニュースの解説者が面白いことを言っていた。

「きっとつかまるでしょう。なぜなら、彼は私やあなたと共通点が一つあるからです。
それは彼が人間だということです。
人間だから、食べたり飲んだり傷の手当てをしなくてはなりません。

もう48時間経っています。潜伏し続けることはできないので食べ物や水や手当を求めてどこかに姿をあらわすでしょう。
仲間のアジトにかくまわれると思われるでしょうが、かくまうことでの量刑の重さは知られているはずです。彼ら同志の忠誠や団結の意識は普通考えられているよりも脆弱なものです。」

だそうだ。

「人間だから」と言われて何か高邁なことが続くのかと一瞬思ってしまった。
そして、仲間に見捨てられる確率が多いとわざわざ言うのは、彼らがイスラム過激派といっても、宗教的、あるいは疑似宗教的な互いに対する犠牲精神を養うグループではないと確認しているからなのだろうか。

まとまったグループの方が諜報機関にサーチされやすく、これまでもストラスブールのテロ計画が未然に防がれてきたのだから、「一匹狼」の銃乱射の方が怖いといえば怖い。

(ここまで書いたすぐ後、14日の夜に、やはり地元に隠れていたテロリストは目撃情報によって追い詰められ、警察に発砲した後で結局撃ち殺された。翌日マクロンがストラスブールに来て犠牲者を追悼し、警察を慰労した。クリスマスマーケットは再開された。ほんとうに平和が戻るのだろうか…)

でも、陰謀論はともかく、このテロのおかげで、警察に拍手する民衆もいて、これまでは「黄色いベスト」運動を取り締まる警官たちを「権力のイヌ」とみなして敵対していた人たちの戦い方が変わりつつあるのは確かだ。
4 週間に渡るデモの警備で全国の警官たちは過労状態がマックスになっていて、これではとてもテロに対抗することができない、もうそろそろデモはやめてくれ、と内務省も訴えているし、「黄色いベスト」のグループの一部も訴えてはじめている。

マクロンが一応最低賃金の値上げやボーナスの支給を無税にするなどの対応策を出したし、これ以上土曜のショッピングを閉鎖したり観光客を逃がしてしまうのでは経済に打撃が多く、それこそボーナス支給どころか倒産しそうな店も出てくる。この辺が手のうちどころだ。

それにしても、政党とも組合とも関係なく種々雑多な人が暮らしの苦しさを訴えて声を上げ、そのうち落ち着くだろうと高をくくっていたマクロンをついに譲歩させた。
そればかりでなく地方のロータリーを占拠し続ける人たちが連帯して、市長にかけあって車の中で生活している人に公営住宅を提供してもらったり、失業者に仕事を見つけたりと、互助の広がりも見せている。

直接民主主義とは何か、経済民主主義、社会民主主義とは何かについて多くの人が真剣に考えて意見を述べるようになった。何のデモの後にでも便乗する「壊し屋」の集団の問題は別として、この「黄色いベスト」の自発的な運動そのものには、半数が女性で、四分の一がシニアであるなど、多様な層の怒りが表明されてそれに共感し応援する世論は、8割を超えることすらあった。

一部過激派が煽るような「マクロンを殺せ」というような暴力革命の志向ではなく、「民衆の声をちゃんと聞いて誠実に答えよ」という原則の絶対支持だ。
そういう意識は「庶民」ではないエリート層にも徹底しているし、「ノブレス・オブリージュ」の伝統はすごく根強い。
庶民に対して上から目線で皮肉っぽい態度をとったマクロンは、下品な態度をとったサルコジよりも反感を持たれた。みんながそれに激しく反応するところは、フランスっぽいとしか言いようがない。

この展開を見ていたら、あらためてショックなのは、日本の「あきらめ」メンタリティだ。

ここ数年のいくつもの法案の強行採決、「友達」優先の数々の忖度スキャンダル、公文書改竄では自死者まで出しているのに、「怒り」は一部の空間や時間限定でしか可視化されない。
首相も大臣も「誠実」や「謝罪」どころか、何も答えなかったり言を左右にしたり、責任の所在を曖昧にしたり、それこそ上から目線の失礼な発言をしたり、どの一つをとっても、フランスでならとっくに限界値を超えている。

私は自分自身、怒りを表明したり、群れをなしてマニフェスト行動をしたりするタイプではないし、不満があっても、自分のことならある程度スルーして、迂回した形の抗議しかしない。
それが日本で生まれ育った庶民の事なかれ主義のせいなのかどうかは分からない。でも、日本にももちろん強者からの不当不公正な圧力に怒りの声を上げる人もいるし、決してあきらめない人もいる。
40 年以上フランスで暮し、フランス人の怒りの表明の仕方、そしてそれが結果的にまともな「対話」の回復につながることを見てきたので、日本ではそれがその方向に進まない現実をますます深刻に受け止めてしまう。
日本では時として、抗議することをあきらめない人たちが「セミプロ活動家」として敬遠さえされるのだ。

私はこのことを、沖縄の辺野古海への土砂投入という蛮行に怒る人々への共感を念頭に書いている。

12/13付の自由法曹団の声明を澤藤統一郎さんのブログからここにコピーしておきます。
私は、このところ、毎日、「涙そうそう」を歌ってます。

日本政府の辺野古海域への土砂投入方針の撤回を求める声明

今年9月に行われた沖縄県知事選挙で、辺野古新基地建設反対を掲げ、「オール沖縄」の支援を受けた玉城デニー現沖縄県知事が、安倍政権の全面支援を受けた佐喜真淳候補に8万票以上の圧倒的大差をつけて勝利した。辺野古新基地建設反対は圧倒的多数の沖縄県民の意思である。

 しかし、日本政府は、行政不服審査法を悪用して、埋め立て承認撤回の効力を停止させた上、12月14日にも辺野古新基地建設に伴う埋め立て土砂の投入を強行しようとしている。こうした日本政府の方針は、沖縄県知事選挙で示された沖縄県民の意思を真っ向から踏みにじるものであり、断じて許されない。

 しかも、日本政府は、土砂投入のため、12月3日に名護市安和にある民間桟橋から土砂搬出作業を開始したが、同桟橋は沖縄県規則で定められている桟橋設置工事の完了届がなされておらず、桟橋内の堆積場についても沖縄県赤土等流出等防止条例で必要とされている届出がなされてないなど、違法に違法を重ねている。

 また、今回計画されている土砂投入は、埋め立てに必要な2100㎥のうち、辺野古側の約129㎥分にすぎない。地盤の強さを示すN値がゼロという”マヨネーズ並み”の軟弱地盤が大浦湾側の護岸の建設予定地で見つかっているところ、軟弱地盤の改良には公有水面埋立法に基づき沖縄県に届け出ている設計概要の変更と玉城デニー沖縄県知事の承認が必要であり、かかる承認がなければ日本政府は大浦湾側で埋め立て工事を進めていくことはできない。

 このように埋め立て工事を進めていく展望が全くないにもかかわらず、日本政府があえて土砂投入にこだわるのは、来年2月24日に予定されている辺野古新基地建設の是非を問う県民投票、3月以降に予定されている衆議院沖縄3区補選の前に、少しでも土砂を投入したことを見せつけて埋め立てを既成事実化し、新基地建設に反対する沖縄県民を諦めさせることを狙っているからである。

 自由法曹団は、二重三重に沖縄県民の意思を踏みにじる土砂投入の強行を許さず、日本政府に対して、土砂投入方針の撤回を強く求めるものである。
  2018年12月13日 自由法曹団 団長・船尾徹


by mariastella | 2018-12-16 00:05 | 沖縄
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