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L'art de croire             竹下節子ブログ

«Qu’est-ce qu’on a encore fait au Bon Dieu ?»『神様にまた何をした』フィリップ・ド・ショヴロン

フィリップ・ド・ショヴロンの大ヒット作『神様に何をした』の続編を先日観に行った。



2014年の前作についての記事。https://spinou.exblog.jp/22246255/

ブルジョワのカトリック夫妻の4人の娘たちが全員フランス人だけれどユダヤ人、アルジェリア人、中国人のルーツの男たちと結婚し、末っ子がようやくカトリックの婚約者を連れてきたら、ブラック・アフリカから来た役者だった。という話。

この監督の作品は2917年には『A bras ouverts』(両腕を広げて=歓待)も見た

そこではブルジョワの庭に住み着くロム(ジプシー)の話が出てきた。ゲイの作家のエピソードも挿入されていた。で、今回の『神さまに‥』の続編には、庭の一角にアフガニスタンの難民を受け入れるとか、同性婚とかも取り入れているので前の二つを合わせたような部分がある。

前作と同様にお笑い全開で、でも、このせいでポリティカル・コレクトネスがすべて無視されて全方位性の偏見が展開される。

観客の誰もが差別する方と差別される方に同時に共感して結局「正しい罪悪感」を払拭してしまうということになり、きびしい批評も見受けられる。

でもよくできている。あまりにも「あるある」なので、フランスでしか通じないと思うけれど。

「罪悪感がなくなる」こと自体に罪悪感を覚えるほどだ。

でも笑いっぱなしなので免疫力アップするかも。

最後に泣かせどころも少し用意してある。

4人の婿たちは互いに偏見を丸出しなのだけれど、「今のフランスには住みにくい」という点で一致してしまう。

フランスとフランス人への悪口が、フランス人の自虐も含めてどんどん出てくる。

フランスとは、神のくれた天国なのに、そこが地獄だと文句を垂れるフランス人が住んでいる国、という言葉の通りだ。その意味で4人の婿たちは典型的なフランス人だともいえる。

ユダヤ人の婿はフランス語しか話せないのに事業がうまくいかず、イスラエルに移住しようという。

アルジェリアにルーツのある弁護士の婿は、自分は酒も飲む普通のフランス人なのに、ブルカだとかブルキニだとか、フランスにいるムスリムの権利を擁護してくれというような依頼人ばかりでうんざりしている。で、いっそアルジェリアに戻って自由化のために戦うムスリムを助ける側に回りたいと決心する。

銀行家の中国人は英語もフランス語も中国語もOKの自分は上海の銀行でステップアップできるという。画家の妻もその気になっている。

アフリカ人の婿はフランスで受けるオーディションはつまらない黒人のチンピラの役ばかりで、いっそインドへ行ってボリウッドでデビューしようと決心する。父権的な父親に干渉される自分の国(象牙海岸)に戻ることは考えない。

ここで、登場人物の誰もが実態を知らず「偏見」しか持っていない「インド」が揶揄の対象になる。「人々が牛の前でひれ伏する国」という具合だ。

おもしろいのは黒人の婿がインドが変な国だという時に「白人の顔をした黒人の国」というところだ。

インドは白人のアーリア人が移住して先住民を支配して上位カーストを形成した歴史がある。だから、多くのインド人の顔立ちは確かにアジア人やアフリカ系黒人の目から見ると「白人」だ。でも、確かに、「ぱっと見」の「色」は黒い。私の子供の頃、「最初の第一歩」とかいう遊びがあって、「オニ」が顔を隠して10数えているうちに、他の子供たちが少しずつオニに近づくというものだった。フランスにもまったく同じ遊びがあって「アン・ドゥ・トロワ、ソレイユ!」という。アン・ドゥ・トロワと目隠しして数えてソレイユ(太陽)で振り向くのだ。

で、昔の日本の子供たち(地域限定なのか今もあるのか調べていない)の遊びで10数える代わりに「だるまさんがころんだ」というのと、「インド人のくろんぼ」という2種類があった。単なる10文字の語呂合わせで差別の意識もないし、「インド人」を見たこともなかった。でも、今思うと、日本はアフリカやアメリカとは離れているから、肌の色が濃い人というのは「インドの人」という先入観がどこかにあったのだろうか。(だるまさんがころんだ」の達磨大師も「インド人」だ。でもだるまさんやお釈迦さまについて「くろんぼ」という表現は聞いたことがない。)

ともかく、この映画で、「インド人」のことを「白人の顔をした黒人」と見るアフリカの黒人がいることが分かった。

で、娘たちや孫たちが遠くへ行ってしまうことに耐えられないブルジョワ夫妻は、フランスの良さを再発見させるために婿4人をロワールの城巡りに招待する。そしていろいろな人に金を払って、アルジェリアやイスラエルがどんなにリスクのあるところかをうまく説得させるのだ。黒人の婿には「オセロ」のオーディションを受けさせて採用させる。先日の映画の『ショコラ』と同じで、シェイクスピア劇の主役を演じるのがヨーロッパの黒人俳優のキャリアの頂点という先入観が100年経っても変わらない感じで使われる。

銀行家の中国人の婿だけは、「中国経済はこれから頭打ちだ」と(舅に頼まれた)銀行の頭取に脅かされても、移住の意志は変わらない。けれども最終的に、姑が中国大使館にこの婿が「チベット解放」のデモに参加していた写真を送りつけたことで、ビザの発給を停止されてしまう。

ブルジョワ夫妻はなんだか「反則」だらけの姑息というかひどいエゴイストたちなのだけれど、この写真によって、この中国人の婿が単に金銭的な成功を目指しているわけではない「人権」擁護派で、とっても「フランス的に正しい」人だと分かるのが救いになっている。

フランスから外に出たいという4人の婿たちが「君たちは全員マクロンに投票したじゃないか、君たちの選んだ大統領がいるじゃないか」みたいなことを舅に言われるのも世相を反映していて面白い。(ブルジョワ夫婦はいかにも共和党のフィヨンに投票しそうな人たちだ。でも、娘婿たちのルーツを見ているから、決選投票では極右のル・ペンにはさすがに投票しなかっただろう。)

結局、全員がフランスに残る。

しかも、パリから離れてブルジョワ夫妻の地域に引っ越した者もいる。

「自分が離れたかったのはフランスじゃなくてパリだったんだ」と気づいたからだ。

気づいたと言えば、彼らは帰りのTGVの中で、舅が金を払って「地方でも差別されずワイン製造業者としてリスペクトされている」男を演じさせた黒人と偶然乗り合わせた。その男が友人にそのバイトの話しているのを偶然聞いたことで、舅がいろいろなことを仕組んだことに気づく。つまり「騙されたままにしない」ことで、舅夫妻の「奸計」の罪悪感も緩和される仕組みになっているわけだ。

そしてそれらがすべて、金をつぎ込んで謀略を張り巡らせても、娘たちや孫たちに同じ国にいてほしい、という親の煩悩、家族の愛情に発しているという前提がある。同様に、婿たちの「移住」計画も結局、子供たちにより良い生活、より安全な生活をさせたいという愛情に発しているのだから、最後は「めでたしめでたし」ということになるわけだ。

もちろんあり得ないようなご都合主義のシナリオなのだけれど、私は、昨年入院していた時の同室者Aさんの話で、このような極端な「多様性」家族がどのように暮らしているのかの実情の一例を知った。


そのAさんにも、実はこの映画(1作目)の話をしたら、彼女も観ていて、彼女のところはもっと大変なのだと言っていた。

そんなこともあって、そしてもちろん私が「フランスにいるアジア人」なのだから、いろいろ考えてしまう。

それにしても、ある意味でこんなきわどいテーマをすべてジョークにしてしまう監督はすごい才能だ。

そして、この映画の軽妙な会話の中の、偏見やらトゲやらカリカチュアやら無責任さやら政治的不公正やらは、一つ一つを批判することはできても、なぜか、「偽善的」な匂いだけはしないのは不思議だ。

これだけ言いたいことを全部吐き出せば偽善ではなくて居直りだからだと言われるかもしれないけれど、どこかに憎めないところがある。


それがアングロサクソン・ピューリタンのベースでないフランスのいいところにつながるのかも知れない。何となく、ほっとする。


by mariastella | 2019-02-18 00:05 | 映画
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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