昨日の関連記事で、オーストラリアのペル枢機卿(George Pell)(77歳)がペドフィリアで投獄されたニュースについて書く。
ミサの前で支度をする香部屋で二人の未成年侍者に触れたとかいう話だけれど、不審な点がたくさんある。ミサの直前にそんなことをする自体が心理的にも不自然だ。「犠牲者」のひとりはなくなっているが、亡くなる前に実はそんなことはなかったと母親に証言したというし、もう一人の証言にも矛盾が多すぎるそうだ。ペル枢機卿は控訴している。ペル枢機卿と言えば、ヴァティカンでフランシスコ教皇の片腕として改革に手を染めた人だ。ヴァティカンの特にイタリア貴族系高位聖職者たちの多くは代々宮殿や城などで贅沢に暮らしているように「既得権」が大きく、フランシスコ教皇はそれを一掃しようとした。もちろんそのことによって「敵」を作ったわけで、既得権益を犯された高位聖職者とその周りの利益享受者たちの「マフィア」が復讐のためにペル枢機卿を陥れたのだという説がある。根も葉もない陰謀論というより、あり得る「陰謀」かもしれない。
ヴァティカンはペドフィリアに関して予防と罰則を徹底したばかりで、ペル枢機卿が「クロ」なら、かばうつもりはない。現に、2月半ばには、ワシントンのマカーリック枢機卿(Theodore McCarrick)を、ペドフィリアの罪により枢機卿として初めて、職務停止ではなくカトリック教会から追放還俗の処置をとった。
今世界中でセクハラやパワハラの弾劾が激しさを増している中には、復讐やでっち上げも一定の数はあるだろう。その識別はたやすくない。
ペル枢機卿のニュースと同時に、司祭をペドフィリアで訴えていたあるカップルが、偽証だと判断されて名誉棄損などの罰金と懲役の実刑判決がでたというニュースも耳にした。悪質な告発もあるわけだ。でもこのニュースはほとんど報道されない。
少し前までは教会の隠蔽体質そのものを利用して偽の告発でメディアにばらすと脅迫し、示談金をせしめていた人もいただろう。ペドフィリアの告発は10年も20年も後になってからのことが多いから、「証拠」も「反証」も難しい分野でもある。その気になると「おいしい」詐欺のターゲットになる。実際、1人の人が複数の国の司教団に偽の告発をしていたことが判明して「ブラックリスト」に載った例もある。
前にこのブログで取り上げたフランスの犠牲者の例は、司祭になった友人たちをいわれのない偏見から守るために、司祭一般や教会ではなく、罪を犯した「特定の司祭」を徹底的に糾弾するという動機があった。
長い準備期間を経て独身制を受容してまで司祭になるような人はホモであろうとヘテロであろうと禁欲するだけの意志を持つ善意の人が率としては圧倒的に多いはずだ。
ヒエラルキーの頂点にローマ教皇を戴くカトリック教会が、どのような試行錯誤によってその「善意の人」たちが世界中の弱者に寄り添うことを支援できるのか、注目される。