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L'art de croire             竹下節子ブログ

バルバラン枢機卿に有罪判決 何が変わるのか?

これを書いているのは3/7の夜。

今日、リヨン大司教であるバルバラン枢機卿に、大司教区内の司祭のペドフィリアについて知った後で司法に通告しなかった罪で執行猶予付きの6ヶ月の懲役という判決が下された。

これを受けて、バルバラン師は、辞意を表明し、できるだけ早く教皇にあってそれを受理してもらうつもりだと述べた。

バルバラン師の弁護士は控訴を準備しているという。

この件についてフランシスコ教皇はバルバラン師をサポートするという姿勢をすでに表明していたから、ショックを受けるだろう。
バルバラン師は、枢機卿でもあり、フランスのカトリックのトップでもあるから大変だ。

この事件に関するフランソワ・オゾンの映画について前に記事をかいたばかりだ。

ペドフィリアに関して「有罪」判決が出た枢機卿はワシントンとオーストラリアに続いてこれで3人目だ。他の2人についても前に記事を書いた。



しかし今回のものは「画期的」なものだ。

何が画期的かというと、他の2人は、マカーリック枢機卿は悪質なペドフィルとして教会からも追放され、ペル枢機卿は「陰謀の犠牲」の可能性が高いが一応ペドフィリアの当事者として告発されたわけだが、バルバラン師の「有罪」により、今回初めて、教会内の性犯罪に対する隠蔽の責任者が有罪とされたわけだ。
もっとも件のスカウト活動でのペドフィリア司祭が告発された後で執務停止にされずに別の教区に移されて再犯を続けた時点では、バルバラン師はまだリヨンの大司教ではなかった。
けれども、そのことが告発された後、その事実を知っても法的な処置をとらなかったということだ。

前にも書いたけれど、密室での性犯罪やペドフィリアの被害者が声を上げ、世間がそれを支援するという空気になったのはここ20年ほどのことで、年配の高位聖職者がそれをどうあつかっていいのか分からなかったというのは理解できないでもない。

特に、ここには書かなかったけれど、先日の修道女への性犯罪の番組の中で、ほとんど組織的な修道女虐待があったとされるサン・ジャン・ファミリーの創設者マリー=ドミニク・フィリップ神父の葬儀のシーンがあって、そこで、バルバラン師が個人の徳、聖性を讃えているシーンが映し出された。

フィリップ神父は2006年に93歳で死んだ。バルバラン師は2002年にリヨン大司教に任命された。で、このフィリップ神父はその時点では「聖性」の誉れが高かった人で、福者認定に向けての活動が始まったくらいだった。実はとんだ性差別者、性犯罪者だったわけだけれど、それが明るみに出たのは2013年に被害者が告発したからで、その時に福者認定の活動は停止した。だから2006年の時点で、バルバラン師がそのことを知らずに個人を讃えたのはプロトコルでもあるのに、ドキュメンタリーではそのシーンがわざわざ切り取られて移されていたから、バルバラン師は、ペドフィリアだけではなく修道女への性犯罪も握りつぶして、加害神父を讃えていたのか、という印象操作に成功していた。

バルバラン師って、しかも、前にも書いてしまったけれど、癖のある濃い顔なので、偏見を持ってみられると大いに不利だ。

で、なにが言いたかったのかというと、バルバラン師の有罪判決が画期的なのは、これによってカトリック教会内のすべての「性犯罪」の隠蔽はもう起こりえないということだ。この手の事件について「口をつぐむ」とか「穏便に済ませる」などという、ついこの前までは教会以外の社会でも当たり前のようにされてきた処理は、もうあり得ない。バルバラン師のような大物が、その「沈黙」に対して有罪判決を受けたのだから。

けれども、実は、「カトリック教会内全て」と言ったけれど、このショックが他の司教区の責任者のこれからの態度を決定的に変えると考えられるのは「先進国」内だけであると思われる。アメリカ、ヨーロッパなどの司教は震えあがり、もう絶対に隠蔽はしないだろうし容赦もしないだろう。

でも、今、世界のカトリック信徒の80%は南半球に住んでいる。

彼らの意識は別物だ。
司教も、司祭も、信徒も、今回の判決にふるえあがることはないだろうと言われる。
南半球の多くの地域では、性的なタブーや倫理観が伝統的に違っているからだ。

先日の修道女の告発番組でも、西アフリカでのまさに「言語道断」の実態が語られていた。
どんどんタブーを壊す勢いがとまらない「北半球」との差は開くばかりだ。

リヨンのカテドラルの前で今回の判決の感想を聞かれた信徒たちには、「バルバラン師は充分リヨンに貢献してくれた」という者もあれば、「もっと早く辞任すべきだった」という者もいた。これをきっかけに、カトリック教会は「不都合な事実を正面から見る」ということを学んだ、だからカトリックは続いていく、ということになるのだろうか。

それを「不都合」だとさえみなさない、別の感受性をもつ「南半球組」は、どうなるのだろう。

今、時はちょうど、キリスト教最大のイベントである復活祭前の四旬節に突入したばかりだ。

2000年前からずっと十字架に釘打たれたままで全ての人の罪を贖うのだと言い続けているかのように見える「あの人」は、ひょっとして、永遠の被害者なのかもしれない。

by mariastella | 2019-03-09 00:05 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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