ノートルダム大聖堂の火災以来、脚光を浴びているのが文化財保護運動のジャーナリストで美術史家のデイディエ・リクネール(Didier Rykner)だ。彼はもうずっと前から、フランスの美術品を外国に貸与することに反対したり、文化財の補修や保存のために声を上げたりしてていた。マクロンが経済相であった頃からすでに文化財への年間予算は500億円から400億円へと削減されていたそうだ。ノートルダムなどセーヌに面するアクアセンターにしてはなどのジョークさえあったという。
パリ市庁舎なら各階ごとに専門の消防員がいるのに、ノートルダムでは日中に一人だけ、それも火災当日には、代わったばかりの新任者だったそうだ。
午後6時15分には最初の煙を目撃した人がいて写真を撮っている。
でも、消防車が呼ばれたのは6時50分になってからで、パリには十分の高さに届く梯子がないのでヴェルサイユに借りることとなり、さらに30分もロスがあった。(パリ32m、ヴェルサイユ45m)
放火説、陰謀論もすぐに出回ったそうだが、それについてはリクネールは全否定している。
火事場にいた人影を撮影したというものも出たが、それは彫像であったり消防員であったりと判明している。
そもそも公共建築の火災の90%は工事中の場所から発生したものだそうだ。
温度が上がると警報が鳴るシステムがなければ発見が遅くなる。
工事人(下請け会社の場合がほとんどだ)のタバコの吸い殻、電気系統のショートのケースが多い。
今回、ノートルダムで補修中だった工事は国の担当だけれど、そこにカトリック教会側が電線を引いていたそうで、それが問題だったかもしれない、そのことについて許可が下りていたのかも現在調査中だという。
彼は、フランス中の他のカテドラルや教会や城なども、深刻な危機に瀕しているとあらためて警告を発している。
明言はされていないけれど明らかにパリ・オリンピックを視野に入れた5年での修復などあり得ない。
たった15日間のオリンピックの経済効果のために、850年の歴史を持つ建造物をあわてて修復するために、今は厳しくなっている環境基準などのすべてのプランや審査などを簡略化、特別扱いとすることなど、あってはならない、という。
尖塔の新デザインについては、ノートルダムが共和国の重要文化財に指定された150年前にはすでに今回倒れた尖塔が存在していてそれも込みで指定されたのだから、原料は耐火性のものに変えるとしても原形を修復すべきであり、設計図も残っているから可能なのだそうだ。
この辺は、美術史家の見方であり、昨日の記事で紹介したシネティ師の「バベルの塔」論とは異なる視点だ。
まだ修復費用の予算は計算されていないけれど、寄付金は充分にあるので、これからは他の文化財の修復、保全、耐火に人々の善意を向けなくてはならない、という。
確かに、ノートルダムの記念金貨をはじめとして、「売りあげの一部を修復費用として寄付」という名目の多くの商品が今いたるところに出回っている。
美術史家、文化財保護活動家、宗教者、いろいろな視点から見ていくと、政治と経済の論理で成立する大口寄付と突貫工事の宣伝など、ほんとうに、空しくなる。