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L'art de croire             竹下節子ブログ

ノルマンディのトランプ大統領

6/6は、ノルマンディ上陸作戦の75周年の記念日だった。
ヴェテランを招待するのは多分これが最後とかで、まさか生きてまたここへ来れると思わなかったと涙する人もいた。当時は17歳が最年少で、つまり今はみな92歳以上だ。500人というのは壮観だ。20歳前後で死んだ無名戦士の墓地の広大さとコントラストをなしている。

で、70周年の時にはウクライナ情勢を見ながらオランド大統領に招かれたプーチン大統領が今回は招かれなかった(外交官は出ていた)というように、完全に政治の道具と化したセレモニーなのだけれど、3日前からイギリスを訪問していたトランプ大統領夫妻を見ていると、その少し前に日本を訪問した時のメディアの騒ぎを見ていたのでいろいろ複雑だった。

日本では、最大級の「おもてなし」とかで、米軍基地に降り立ったトランプをゴルフに、大相撲に、新天皇による接待に、などとはしゃいでいた。新天皇夫妻が通訳なしで会話できるとか、日米の絆とかも強調されていた。

そのことを将軍が「外様大名」の所を訪れたようなものだと評していた人がいたけれど、その後でエリザベス女王と並んだ姿を見ていて、なるほどこちらは「譜代大名だなあ」と思った。いや、トランプはイギリス(正確には母がスコットランド出身)にルーツもあるし別荘もあるし、今のアメリカ自体がもともとイギリスの植民地がルーツなのだから、もちろん通訳も必要ない。

で、ノルマンディ上陸作戦記念日ではアメリカとイギリスとフランスが「連合国」として、ヨーロッパをナチス・ドイツから救った、平和のためには命をかけた、と称賛し合っていたわけだけれど、なんだかなあ、と思う。
カナダは首相の他に大司教が出席していたのは興味深いが、こういう称賛の仕方では、東から同じくナチス・ドイツを切り崩して多くの犠牲を出したソ連を無視するのはいいのかと思うし、日本人としては、この1年後に広島と長崎に原爆を落としたくせに何が「平和のために命をかける」なんだろう、とも思ってしまう。

北方領土問題もアメリカがもともと戦利品としてソ連に与えた、という記事を最近読んだけれどさもあり何という話だ。
北方はソ連に、沖縄はアメリカに、という占領のされ方が実質続いているということなのだろう。

そしてジャンヌ・ダルクではないけれど、イギリスとフランスは天敵のような間柄だったくせに、とか、アメリカの独立戦争のためにはフランスがアメリカに行ってイギリスと戦ったんだよなあ、と思うし(トランプは、フランスには今でも感謝しているし、もしまたフランスが危機に陥ったらアメリカはまたすぐに助けに来る用意がある、みたいなリップサービスをしていた)、今EUを揺るがせるナショナリズムだのトランプのアメリカ一国主義だのという現実の情勢が頭をよぎる。

この複雑な関係の政治ショーを見ていると、イギリスで起きた派手なトランプ批判のデモの様子も合わせて、その少し前にあった「極東」の外様大名による政治ショーなど、単純なものだなあと思ってしまう。
イギリスの王室の王子と結婚したアフロアメリカンの血を引くアメリカ人のメーガン妃がトランプと同席を拒否するなど、そういう骨太の駆け引きがあり得ること自体が、なにか別世界の出来事みたいだ。

フランスはと言えば、こういう時はいつも通りマクロンはしっかり強気でトランプの批判めいたスピーチを忘れないし、コメンテーターも、「トランプは歴代の大統領などのエリートたちがヨーロッパの歴史や文化を学んでいたのと違ってアメリカしか知らないで教養がないから」などと言っていた。
イギリスのメイ首相はこの日が在任の最後で、ある意味「形」だけの存在だから、マクロンVSトランプの対決はマクロンの教養の見せどころでもある。(ドイツのメルケル首相はイギリス側のポーツマスのセレモニーにだけ参加した)

マクロンが、アメリカ一国主義に向かうトランプに、過去にアメリカが自由と民主主義を救うために大きな犠牲を払ってノルマンディにやってきたことを称賛したので、トランプも、「今でもフランスが危機の時にはもちろん来ますよ」と言わざるを得なかったた。
でも、75年前に前線に送られたのが17、18歳の兵士たちだったように、今の世界中の戦場でも、実際に命をかけているのは政治家たちではなく、若者たちだ。
イギリス軍のヴェテランが、出撃前に、「生きて帰れる率は50%だと士官から言われた」と証言していた。

まあ、フランスの場合、「自由フランス」軍がわずかでもノルマンディ上陸作戦に加わっていたからこそ、「連合国が世界平和を牛耳る」という「戦後」体制に相乗りできたわけだから、フランスはやはりド・ゴール将軍に多くを負っている。
もっとも、ド・ゴールは、6/6を記念の日としていなかった。フランス軍の割合が少なすぎて、英米の祭りだからだ。しかも、実際にナチスに打撃を与えたのはその後のプロヴァンス上陸の方だった。(こちらは自由フランスのラットル・ド・タシニィ将軍も指揮して、フランスの存在感が大きく、チャーチルは乗り気ではなかった)
けれども、アメリカのプロパガンダとしてはやはり「ノルマンディ上陸作戦で命を落としたアメリカ兵たちがヨーロッパに平和をもたらした、としたいわけで、このような政治ショーが定着したわけだろう。

とにもかくにも、その後の75年、フランス国内では戦争は起こっていない。

最近亡くなったミッシェル・セールはいつも、現在は過去よりも確実によくなっている、けれども未来が現在よりもよくなるとは限らない、と言っていた。

未来のために過去に学ぶことは、まだまだある。




by mariastella | 2019-06-09 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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