5月初めに日本から戻ってきた時、無神論ユダヤ人である友人が、アリエル・ドンバルが「アベマリア」を自分のSNSにアップしたのを見せてくれた。4/17、ノートルダム大聖堂が炎と煙に包まれた日から2日後だ。
アリエル・ドンバルはオペラ歌手になれたくらいの立派なソプラノだけれど、女優としての知名度と、ベルナール=アンリ・レヴィの連れ合いということで知られている。結構エキセントリックな人だとは知っていたけれど、その涙を流さんばかりの「アベマリア」の歌と、ノートルダムへの愛の告白の大仰さには驚いて、滑稽だと思った。火災直後のにわかノートルダム狂騒曲の典型で、巷の急な信仰熱にどう対応していいか分からなかったインテリ左翼無神論者のグループは、これを見ながら笑えることで「ガス抜き」ができるというわけだった。こういうやつ。
ところが、最近、アリエル・ドンバルがメキシコで少女時代を過ごしてすっかり中南米風の「信心」を身につけていることを知った。メキシコと言えばグアダルーペの聖母だし、パリに住むようになってからはもう「ノートルダム大聖堂」命、という人だったようだ。ノートルダムの聖母こそが彼女のメキシコとパリをつないでくれるものなのだ。
そういえば、ベルナール=アンリ・レヴィの妹がやはり過激な回心によってノートルダムで洗礼を受けたことを前に書いたことがある。
なるほど。この義理の姉妹の信仰熱はさぞや互いを増幅していたことだろう。
だから、ドンバルのあの動画は、にわかパフォーマンスや話題作りの演出なのではなくて、「本物」だったのだなあ、と感心した。
そう思って見なおすと、ドンバルさんやBHLの妹、かわいそうに、と思う。
大聖堂の火災という強烈なビジュアルのために、かえってバイアスがかかって感情移入できずに申し訳なかった。
複合的なコンテキストをまずちゃんと読み解くことが、私のような素直でない人間には必要だ。
ツィッターとかやってなくてよかった。