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L'art de croire             竹下節子ブログ

須賀敦子さんに思う

先日、友人のFacebookにリンクされていた須賀敦子さんのドキュメンタリーを観た。

https://www.youtube.com/watch?v=zHeSFJIAsE4&feature=youtu.be&

彼女は私の叔父と同じくらいの年代だけれど、日本で活躍したのは私がもうフランスにきてからだったから、作品を読んだことはない。

イタリアの話、カトリック、イタリア人の夫との死別、ミラノの書店、などというイメージくらいだった。このドキュメンタリーを観て、とつぜん身近に感じた。


私の母と同じく阪神間の出身だというのもそうだけれど、亡くなった時の年齢が今の私とそう変わらず、最後にフランスを訪ねてフランスのシスターの生涯を小説に書こうと決心した、と語る須賀さんが今の私と同年代だからだ。


今思うと、私の母は、神戸で育ったから「異人館」で英会話を習っていたそうで、戦争がなかったらT塾大学の英文科に行きたかったのに、とよく言っていた。私にとっては、「ああ、そう」という話に過ぎなかったけれど、終戦時に20歳だった母と、156歳だった須賀さんでは本当に運命が変わったなあ、と思う。

で、母は、終戦の二年後に結婚したけれど、須賀さんは洗礼を受け、聖心女子大に行き、貨物船でフランスに給費留学する。その2年間で「フランス人は理屈っぽくて」どうしても対等に話をしあうきっかけが誰ともつかめなかった、と失望したそうだ。

うーん。昔遠藤周作さんの追悼文にも書いたことがあるけれど、戦後にフランスに渡ったカトリックの日本人にとってのフランス文化やメンタリティのハードルの高さは、私の体験とまったく異質で想像を絶する。

そして、須賀さんがイタリア人と結婚したことで、知的な接触だけでなく「生活」というものを知ったことの強みについて番組で男性学者らが語っていたけれど、それにも違和感があった。

1960年前後のミラノでカトリック左派とつき合っていて、夫君の両親の家庭は貧しい労働者で、夫君のきょうだいも亡くなっていて、そういう環境に十数年いただけで日本に帰った。

確かに、ただの留学生の体験記とは違うだろうけれど、なんだかとても特殊な場所の特殊な時代の話だ。特殊の中に普遍は宿るという言葉はあるけれど、日本でこういう受け入れ方をされると何か不思議だ。

逆に、今、日本では「フランス人は日本人とこんなに違う」みたいな比較文化テーマの本がたくさん出ているけれど、「パリに住んで20年」でフランス人の家庭をこんなによく知っている、風の記事のほとんどには、えっ、それってただのステレオタイプでは ? ということばかりで、「あるある」と共感できない。

戦争のトラウマもなく、女性差別も経験せず、お気楽にフランスに住んで、多くのアーティストと交流があり、40年以上もあらゆる年代の生徒たちによって生活感をアップデートできて、しかもインターネットで国境も時差もない情報が得られる時代に生きている私は、こうも恵まれているのが非現実的で後ろめたい。

狭い意味で「異文化を伝える」というのはどうも私の仕事ではないらしい。


by mariastella | 2019-08-15 00:05 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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