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L'art de croire             竹下節子ブログ

オクシタニ―旅行記 その1

今日から、8月の終わりに回ったオクシタニ―の巡礼地の紹介を開始。

といっても、ロマネスク教会をじっくり回るといったものではなくて、とってもメジャーな4ヶ所が中心です。

そもそも、フランス南西部に最後に出かけたのは確かもう15年以上前。
今回はトゥールーズまで飛行機で行ったけれど、フランス国内の移動で飛行機を使ったのは、やはり一度トゥールーズからパリに飛行機で帰ったことがある以外はじめてだ。
後は車かバスか特急ばかりだった。今回はトゥールーズでレンタカーを借りて、アルビの空港で返してパリに戻った。

最初に向かったのは、カオール。

今回、このルートを選んだ最大の理由がカオールだった。カオールのサン・エティエンヌのカテドラルの献堂900年記念に、あのイエスの頭巾の聖遺物が公開されているからだ。

十字架で息絶えたイエスを埋葬するために、まず顔を覆って、その後、口が開かないように、顎から頭にかけて固定する布が使われた。その上から、有名な「聖骸布」で全身を覆った。死後硬直が始まったので、顎を固定していた布は外された。

で、現在、このイエスの血の付いた布は、全身の姿がネガ像で映っているトリノの聖骸布、顔を覆ったオビエドのスダリオ、そしてこのカオールの顎布コワフと3ヶ所に分かれている。イタリア、スペイン、フランスだ。
(トリノの聖骸布についてはこの本に私も記事を書いている)

トリノの聖骸布は有名なので、いろいろな人が模写したり、模写したものを「本物」にくっつけて祈ることで仏舎利のように複写品ができたりで、いろいろなところにある。聖骸布とスダリオは福音書の中で空になった墓に残っていたと出てくるので有名なのだけれど、顎を支えていたコワフの方は、このカオールにしか記録がない。(カオールの人は、福音書に出てくるのがこのコワフだと言っている)
8枚の細い亜麻布をツギハギしたもので、60センチくらいで、1844年にシャンポリオンが、一世紀初めの布だと鑑定したそうだ。
血痕が内と外に染みついているのは1939年に確認され、顎髭が剝れた跡があるともいう。
そして、今では研究者にとっては有名な話だけれど、この聖骸布とスダリオとコワフの血液型も一致するし、血の流れた場所の位置関係も綺麗に一致するという。つまり、イバラの冠や鞭打ちや十字架を背負った肩の傷など、血まみれだった部分が一致するので、それがイエスかどうかは別として、血だらけの同一人物を覆っていた布であることはほぼ確かだという。

その一つであるカオールのコワフは、何百年も、別にトリノやオビエドと競合したわけでもなく付き合わせて確認したわけでもなく、エルサレムに保存されていたものが、ただ、ひっそりと、カオールにまでもたらされた。9世紀初めにエルサレムの主教から、またはコンスタンティノープルの皇妃からシャルルマーニュに寄贈され、シャルルマーニュがカオール司教に寄贈したという説があったが、実は、12世紀にカオールの司教が十字軍の遠征から持ち帰ったというのが真実らしい。

トリノの聖骸布がトリノに落ち着いた経緯にもよく分からない部分があるのだけれど、カオールのコワフについては、いったんカオールに納められてからは動かなかった。

カオールの近くのモントバンなど宗教戦争でプロテスタントの牙城となり、カオールのカテドラルも大きな打撃を受けたのだけれど、そしてフランス革命でも同様だったのだけれど、このコワフだけは、住民によって守られてきた。

不思議だ。

しかも、今でも、普通の観光ガイドでカオールのカテドラル案内に、このコワフのことはフランスのものでさえ触れられていない。献堂900年でパリのノートルダムより古いのだから、見どころはたくさんあるので詳しい説明はされているのに、21世紀の今、「イエスの聖骸布」などを持ち出すのは一種のタブーであるかのようなのだ。
この不思議な感覚はこのオクシタニ―の別の場所にもあった。
考えてみれば、カタリ派異端の征討、プロテスタントとのユグノー戦争、フランス革命、とこの辺りは三重のトラウマを抱えているからなかなか見えてこないものがある。

で、900年記念のメダルはあっても、コワフの巡礼記念メダイの「信心グッズ」はどこにもない。
あるのは、サンチアゴ・デ・コンポステラへの巡礼路に当たるので巡礼記念にもらえるハンコだけ。日本の御朱印帳に当たるものに我あるけれど、これも日本にであるように、別紙にハンコだけ押したものもある。

こういうの。
オクシタニ―旅行記 その1_c0175451_19585542.jpeg
日本の御朱印の方がずっと趣がある。
これはお土産に買ったオクシタニ―十字架。
今でもオクシタニ―地方の紋章は赤字に黄色のこの十字架。
オクシタニ―旅行記 その1_c0175451_20042529.jpeg

(続く)

by mariastella | 2019-09-04 00:05 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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