フランスのカトリックの最高機関である司教会議には付属するいろいろな委員会があるがその一つに「信仰と文化ウォッチング委員会OFC」というのが15年くらい前からある。月に一度10人くらいの識者(聖職者、文学者、哲学者、歴史学者なども多彩)が、話題の本や映画や音楽、演劇、評論などにおけるキリスト教の影響、関係を語り合って、そのレポートが毎週全ての司教に送られる。(テーマは例えばフランスのさまざまなポップ・ミュージックの歌詞における「父親」像を分析してその「父親」像にキリスト教の伝統的な父なる神や父性とどのように関係しているかといったもの。)その後で司教会議のサイトにも掲載される。
「巷で話題になっていること」について、司教たちがいつもアンテナを向けていることに役立つわけだ。毎年一度はそれをもとにしたセミナーもあって一般の人も参加できる。今年は12月7日だそうだ。興味がある。
「巷」の方からはカトリック教会はもう存在感が薄くて無視されているか、時代遅れ、超保守、非合理というイメージや他のスキャンダルなどによって忌避されていることも少なくないのだけれど、カトリック教会の方はちゃんと「巷」をウォッチングしていていろいろなコメントをしているわけだ。そこに政治的野心も経済的野心もゼロだから、なかなか本質的で参考になる。
今の責任者はアジャンの司教ユベール・エルブルトーで、彼は今年6月に亡くなったジャン=ルイ・クレティアンについてのレポートを書いたそうだ。(ジャン=ルイ・クレティアンって、カントみたいな人だった。最近の彼の「脆さFragilité」についての本は話題になっていた。脆さというか儚さというか脆弱さというか、そういうものと「美」の関係について語った本もあった。「はかないものの美しさ、美しいもののはかなさ」は関係がある。「疲れ」についてのエッセイも読んでみたいと思うものだ。)
エルブルトー司教の今一番お勧めの本は『鳥たちの小さな哲学』というもので、少し読んでみたけれど夢中になれるくらいおもしろい。そのうち少し紹介してみよう。22ヶ国語に翻訳されているとあるけれど日本にはまだないのだろうか?