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L'art de croire             竹下節子ブログ

『手錠のままの脱獄』1958 スタンリー・クレイマー監督

12/2arteで視聴。



原題は「The Defiant Ones」で護送車から50 cmの鎖で手錠をつながれたままの白人と黒人の脱走劇だから、脱獄でなく脱走だ。

1958年と言えば、人種分離法がまだあって、公民権運動が高まりつつあった時代だ。その時代背景を考えると、感慨深い作品だ。

白人はトニー・カーチスで、黒人がシドニー・ポワチエ。

この二人の出演作品はけっこう見たはずだけれど、これは記憶がない。

2人の囚人が互いに回想するシーンで、黒人はもちろん差別を受け続けてきたけれど、白人の方も、移民であって、高級ホテルで他の「上級白人」から見下される屈辱を受け続けてきたという。

今調べると、監督のスタンリー・クレイマーはユダヤ人、トニー・カーチスも、ハンガリーから亡命してきたユダヤ人だった。シドニー・ポワチエの方は、確かにポワチエというのはフランスの都市の名前だけれど、ノルマン人によるイングランド征服の頃のフランス人の名前で、そのフランス系イギリス人が植民地のバハマで働かせていた黒人奴隷がみな「ポワチエ」という「主人」の名を使い、シドニー・ポワチエはその子孫なんだそうだ。

うーん。アメリカの人種差別についてはじめて実感したのは、有吉佐和子の『非色』という小説を1970年代に読んだ時だった。アメリカ黒人と日本人、アフリカの上流黒人、アメリカのプエルトリコ人、そして白人であるユダヤ人。差別の構造と心理メカニズムに驚いた。


最近の映画ではやはりまだ人種分離法のある1960年代初めのアメリカを描く『グリーンブック』があった。黒人アーティストとイタリア人運転手という組み合わせだった。

今回観た『手錠のままの…』は、ストーリーの展開がある意味で予定調和だけれど、唯一「女」として、当時のアメリカの庶民の白人「女」の思考パターンを思い知らせてくれる登場人物が印象的だった。

また、特撮やCGを使えない時代での、激流を渡るシーンや石切り場の穴から這い上がるシーンなどはモノクロ映画でも迫力があり、撮影もさぞや大変だったろうと察する。スタントマンはいたのだろうか。(ひょっとして白人の方にだけいたりして。)手首も本当に痛そうだ。

この映画を観ると、問題は「人種差別」ではなく、移民、難民、民族差別、性差別も同時に扱う大きなプラットフォームが必要なのだ、とあらためて思う。


by mariastella | 2020-01-10 00:05 | 映画
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