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L'art de croire             竹下節子ブログ

外出規制のフランス  アンドレ・コント=スポンヴィルの「不都合な発言」など

マクロン大統領がフランスの外出規制解除を5/11に設定した。いっせいにということではなく、学校を中心に分割登校などが考えられている。今も、医療従事者の子供たちのために学校が開けられていて、ボランティアの教師たちが面倒を見ているが、彼らにも報奨金が支払われることになった。

オランダなど感染者重篤者の少ない国から応援に駆けつける看護師らのために、今や閑古鳥状態の不動産会社が、空き室を無料で貸し出すというプラットフォームがスペイン、フランス、コロンビアなど共同で立ち上げられたらしい。ベッドルームが三つに広いサロンなど、普段なら高額な家賃だろうアパルトマンを提供された三人の看護師が喜んでいた。もちろん家主が喜んで提供したのだ。

いつもは不用品などの回収、リサイクルで運営されているエマウス共同体などはこの外出規制で資金繰りが苦しくなっていて寄付を呼び掛けている。自宅隔離中に「断捨離」を実行して仕訳けている人も多いから、外出規制が緩和されたら、エマウスに持っていく人も少なくないだろう。

ひどいニュースもあった。カナダのケベックの私立の高齢者施設で31人の死者が発見されたという。そのうちcovid19の感染者は5人で、最初の感染者が出た後でスタッフが怖れて逃げ出して、高齢者たちは看護も介護も受けず、食事ももらえず、亡くなったのだ。こういうひどい例が存在し得るのはとても信じられない。動物愛護センターですら必死で頑張っているのに。


人気哲学者のアンドレ・コント=スポンヴィルが、「不都合なこと」を言い出して、メディアで自主検閲するところが出てきたのもニュースだ。彼は政府の倫理諮問委員会のメンバーもつとめたことのある68歳だが、メディアのcovid19翼賛体制にうんざりして、そもそも一年に60万人が死んでいるフランス、covid19の死者だけ毎日数え上げるのはおかしい、covid19による死者の平均年齢は81歳、騒ぐのはおかしい、フランスでは毎年25千人のアルツハイマー患者が出る、自分は死ぬのは怖くないしcovid19に感染するのも怖くないけれど、アルツハイマーになるのは嫌だし、怖い、と言う。

「健康であること」は「よいこと」だけれど、「価値観」ではない。「健康」や「富裕」は人が憧れ羨むことだけれど尊敬するわけではない、人が羨むのでなくて尊敬するのは、徳のある人、理念のある人だ。

「政治的公正」を「衛生的公正」に置き換える社会は自由を侵害する、という。

 

同様なことは別の形でいろいろな人が言っている。せっかく、「お年よりを守ろう」とキャンペーンがなされているのに、「高齢者」自身が、自分は怖くない、いつかは死ぬのだから自由に生きたい、と言い出すと、なかなか反論しにくい。

ニュアンスは違うけれど、90代の高齢者である藤永茂さんが、ジョン・ピルジャーが3月12日に発した警告をブログで訳出していらした。

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/331a5f07c663583a6f6b4425af4b8456

 

「世界的流行病(パンデミック)が宣言された。しかし、それは不可避ではない饑餓から2,000 人の人々が毎日死んでいることに対してではなく、また、予防可能のマラリアにかかって毎日死んでいる3,000 人の子供たちに対してでもない。公的資金による健康保険制度から排除されたため、10,000人が、毎日、死んでいるからでもない。米国による貿易封鎖で救命に必要な薬品類が輸入できないために何百人ものベネズエラ人やイラン人が毎日命を落としているからでもない。イエーメンで、米国と英国が、武器売り込みで儲けながら継続させている戦争の故に、毎日、殆どが子供たちの何百人もが爆撃され、餓死に追い込まれていることに対してでもない。パンデミックだと大騒ぎする前に、これらの人々に思いを馳せよ」

 

というものだ。

不可避ではない飢餓や予防可能な病気で毎日何万人もの子供が死んでいるニュースはもともと報道されないのに、「先進国のセレブ」でも感染するウィルスは、すべてのメディアを覆いつくす。

確かに、冷静に考えると、この新型コロナウィルスが引き起こす関心とパニックは世界の他の深刻な問題と比べてバランスを欠いている。「高齢者」のカテゴリーの知識人たちが、いつかは来るような死を恐れずにもっと本質的なことに目を向けよ、「自由」は「健康」を超える価値である、と意気軒高に語るのを見るのは頼もしくはある。けれども、前の記事でも書いたように、「お年よりを守ろう」「弱者を守ろう」という言葉とともに、若者たちも「外出規制」に甘んじているのを見ることもまた誇らしい。

アンドレ・コント=スポンヴィルには3人の息子がいる。きっと息子たちや孫がいるなら孫たちも、彼には感染してほしくない、自分たちが無症状でも感染させたくない、と心から思っているだろう。少なくとも、私の周りの20代から40代の人たちはみな、親を守りたい、と明言している。私の親が生きていたらもちろん私もそう思う。

とはいっても、復活祭前の記事に書いたように、「エルサレムに入場するイエス」を説得できずに祝福してしまったのと同じで、立場が親子で反対でも、子供でなく「高齢の親」が「死は怖くない、自分には使命がある、リスクをおかす自由が必要だ」と断言するなら、子供も、「とにかく隔離してでも親を守る」ことだけが親孝行ではないと思ってあきらめるかもしれない。

「死は怖くない、自分は明晰であり、その明晰さをこの世の不条理や不公平の解明や解消のために捧げたい」という明確な意思を持つ「高齢者」は、「弱者」でなくて「強者」なんだなあ、と思う。

(「ウィルスなんて怖くない、今までと変わらず好きなように出かけて楽しむから放っておいてくれ」というタイプの高齢者はまた別だけれど。)


by mariastella | 2020-04-21 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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