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L'art de croire             竹下節子ブログ

コロナ規制段階的解除のフランスで見えてきたこと -- ロックダウンを招いたもの

外出規制、スーパー薬局など以外の店舗閉鎖などが2ヶ月続いた時期から「段階的解除」に入って、1週間、フランス人が一番欲していたブランドとは、上位から、FNAC、ルロワ・メルラン、エール・フランス、ラコステ、マクドナルドなんだそうだ。FNACはもとは大型書店で、CD、DVD、IT商品から今は家電まで広く手掛けている。先週から開いたFNACの前には入店制限のせいで長い列ができたそうだ。フランス人はもともと列を作って並ぶのが大嫌いなのだけれど、久しぶりに入ることのできる「自由の空間」を前にして忍耐強くなったかのようだ。時間に余裕のある人が行くからかもしれないけれど。
ルロワ・メルランはフランス男のディズニーランドとも呼ばれる日曜大工用品専門店で、これは4月半ばから一部開かれて、自宅隔離のフランス人が自宅の修理や改造に精を出しているのが分かる。
でも、外出規制解除になっても未来への不安を覚えるフランス人が50%いるらしい。コロナ禍以前は15%だったというから、トラウマは続いている。イタリアとかスペインとか、ラテンっぽいオプティミズムのありそうな国はコロナ禍の打撃でどう変わったんだろう。

今年の5月、6月は、ヨーロッパにとって、第二次世界大戦後75周年のさまざまな行事があったはずなのに、新型コロナの脅しをかけてロックダウンを強行したせいで、政治外交的パフォーマンスが不発に終わったという政治家の後悔が多少見えはじめてきた。
カトリック教会は復活祭前後の最も大切な典礼の期間にまともに打撃を受けたわけだけれど、カトリックと世俗愛国主義も実は関係が深い。5/16はジャンヌ・ダルク列聖の100周年だった。(記念行事は秋に延期とはなっている)
フランス革命後、19世紀にはじまったジャンヌ・ダルクの「復権」は、政教分離に至る共和国の政治と宗教の対立を終わらせてフランス人の集合的愛国意識に組み込まれた。
戦場で戦う聖女であるジャンヌ・ダルクは、苛烈だった第一次世界大戦の間、兵士たちの守護聖女(当時はまだ正式の聖女でなくその前段階の福女だった)となり、大戦後の列聖は、その翌年のフランスとヴァティカンの外交樹立につながるシンボリックな出来事だった。第二次世界大戦では、ジャンヌ・ダルクはレジスタンスの闘士たちの守護聖女となった。
ド・ゴール将軍は最初に大統領に選出された1959年のジャンヌ・ダルク祭に出席し、以後、ジャンヌ・ダルクへの表敬は歴代大統領の務めの一つだ。しかも、5 月。フランスでは春が一度に訪れる一番美しい季節だ。
大佐だったド・ゴールが、ドイツ軍のフランス侵攻を一時阻んだのは1940年の5/15で、80周年の今年もマクロンは演説したけれど、パフォーマンスは不発だ。ドイツが降伏した1945/5/8は今でも祝日で、今年は75周年だったけれど、どこもかしこも「ロックダウン」中だった。
Covid19パニックやロックダウン政策には、多分に地政学的な要因があったが、5月という「政治の季節」を活用できなかったことには各国とも思惑外れの部分があっただろう。このままいけば、バカンスや観光のハイシーズン、革命記念日にまで影響が出てしまう、というわけで、新型コロナウィルスへの過剰防衛に疑義を呈する動きが見えてきた。

今思うと、近世史上最大でも最悪でもないウィルス感染がこのような過剰反応を起こした原因の一つは、「コロナ以前」の社会における「病気や死」への感受性が特殊だったからかもしれない。
具体的に言えば、やはり、「バイオ・医薬・健康産業コングロマリット」のプロパガンダが、すでにあらゆる「先進国」を汚染していたというベースがあるのだろう。健康第一主義、健康でないことは「過ち」であり、健康が自己目的化し、「救済」に取って代わった。昔は各宗教が食べ物に対する「忌み」を指導していたけれど、今は国家が、タバコやアルコール摂取について主導する。
軍需産業、エネルギー産業の肥大による環境破壊や弊害の方が分かりやすい危機意識を育ててはいたけれど、実は、バイオ・医薬・健康産業の肥大も、人間をユマニスムから、他者との関係性から、生きることの意味から遠ざけていたのだ。
新型コロナウィルスは、「医療崩壊」によってバイオ・医薬・健康産業の全能感を傷つけたからこそ、「命か経済か」などという狭い視野の二択を導いたのだろう。
その背景には、「利益の少ない」分野の予算を削るという新自由主義経済の公的医療予算の縮小があった。
Covid 19が「医療崩壊」を招いたのは、バイオ・医薬・健康産業にとってコスパの悪い分野を取り払って合理化を図るという状況、すでに「ペイしない弱者の命より経済」という選択がとられつつあったことの結果だともいえる。

「命」とは体の健康だけではないし、命を守り、養うのは、ウィルスを避けて死なないこと、だけではない。
「経済」とは少数者の権益の増大によってだけ回るものではなく、互いの「命」を支えていく営みでなくては、環境と共にやがてはすべての人を破壊する。

by mariastella | 2020-05-19 00:30 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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