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L'art de croire             竹下節子ブログ

フランス・コロナの昇天祭

5/21は、復活したキリストが弟子たちの前で天に昇っていく昇天祭の祭日だった。
宗教施設の公開行事の閉鎖解除が出たばかりだけれど、本格的な公開ミサは、10日後、31 日の聖霊降臨祭からということになる。マスクや消毒液、ソーシャル・ディスタンスなどいろいろな準備が必要だからだ。

6月を待たずに解禁となったのは、イスラム教のラマダン明けが5/24、ユダヤ教の夏の七週祭(シャブオット)が5/29に控えていることもある。アブラハムの三つの一神教の要望が一致したわけで、原則非宗教共和国政府に対して団結した様子もうかがえる。例年なら、ラマダン期間のテロ発生が警戒されるところだけれど、今年はコロナ外出規制のせいで、レストランも閉まっているから穏やかに過ぎた。

昇天祭のミサの中継をカトリックテレビで見たら、説教がまさに時世を反映しておもしろかった。
キリストの昇天祭というのは、父なる神から聖母の胎内に送られ、人間として「受肉」して人間として生き、苦しみ、殺されたナザレのイエスが、傷口も露わなまま「復活」して、弟子たちのもとに40日間あらわれた後で、天の父のもとに戻ったという日だ。その10日後に、今度は「聖霊」という形で「降臨」して弟子たちの使命続行を可能にした。
キリストの体は、教会という信徒の交わりの中での「聖餐」という形で新たにされ続ける。
で、説教の中で、キリストは、昇天したことで「受肉」してからまとっていた人間の殻を脱いで神に戻ったというわけではない、ということを、covis19と戦った医療者で例えた。つまり、医療者は、病院にいる間、防護服、マスクなど、完全装備を身にまとって、苦しむ人々を救うために奉仕している、で、その務めを終えて病院を出る時は防護服などすべて脱ぎ捨てて身軽になって帰宅する。イエスも、この世での「人間の姿」での病の治療や救いの活動を終えてから、その肉体を脱ぎ捨てて天の家に戻っていく、と言うように見えるかもしれない。
決してそうではない、イエスの昇天は、私たちすべてを肉体も魂も共に天の父の家へと導くものなのだ。
イエスの「体」も、「聖体」として分かち合われて、そのことですでにイエスを信ずる者の「死」は変容している。
ここで、ド・ゴール大統領がダウン症の娘アンヌを看取った時に妻のイヴォンヌに言ったという言葉が引用された。
「アンヌも、みなと同じになった」というのだ。
意味は分かる。鞭打たれ、十字架に釘打たれて凄惨な殺され方をしたイエスが復活し昇天したように、この世での人生の部分では障碍を背負って生きなければならなかった人も、天の父のもとでは肉体も魂も「霊的」に完全な形で迎え入れられる、という慰めの言葉だったのだろう。
でもこの引用には少し抵抗を感じた。今現在、社会生活にハンディキャップを抱えて生きている人や、必死にその世話をしながら生きている人にとって、「天国に行けばみなと同じ」というのは慰めになると思えない気がする。
もちろん、キリストと結ばれれば、ユダヤ人とギリシャ人、奴隷と自由な身分の者などすべての差別がなくなるというのはパウロも保証している(ガラテヤ3,23-29)。けれどもイエスは、病人や飢え渇いた人、宿のない人、囚人など、すべての弱者の中に自分はいるのだと言っている(マタイ25, 35-40)。「みんなと同じ」でないことをハンディキャップだと区別や差別する発想自体を覆しているわけだ。

コロナ禍の中、防護服を装備して献身的に治療、看護にあたった人々は、昇天前のイエスなのでなく、誰よりもイエスに近くイエスの世話をしたことになる。
いろいろ考えさせられる。

聖霊が降りてくるのが、楽しみだ。

by mariastella | 2020-05-23 00:05 | 宗教
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