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L'art de croire             竹下節子ブログ

アッチラとフン族の話

アッチラとフン族についてのドキュメンタリー映画を見て、あまりにも発見が多かったのだけれど、今取り込み中なので覚書だけ。

ドキュメンタリーは2014年から発掘され始めたカザフスタン、カスピ海東岸のAltinkazganという遺跡の発掘をめぐるもので、そこにはアラン族のものと思われる一角とフン族の一角がある。
フン族のものだと分かるのは、コーカサスの北にあるフン族の墓所から出てくる副葬品と同じものが出てくるからで、魚の鱗の模様の入った純金製の馬具などだ。

どうもアッチラの死後、カスピ海の北部が陸地化した時に渡って、ペルシャ侵攻を考えていたらしい。そこにあるのがアッチラの墓所かどうかはまだわからない。

私のイメージでは、アッチラと言えば、パリの近くに来た時にジュヌビエーヴのおかげでフン族が迂回したという話で、ジュヌビエーヴがパリの守護聖女となった聖人伝で必ず上がるエピソードだ。
フン族は、当時すでに東西に分裂していた巨大なローマ帝国に近づいては、侵攻すると脅して金銀財宝の貢ぎ物を受け取ることで引き返すということを繰り返していたそうだ。
その頃のヨーロッパと言えばキリスト教化してしまうゲルマン族らの「蛮族」の王についての記述はたくさんあるけれど、フン族やアッチラについての記録は少ない。立った一人アッチラに実際に会ったギリシャ人の外交官プリスクスがコンスタンティノープルに戻ってから残した記録がからあるだけだ。それもラテン司教ヨルダネスによる翻訳でしか完全には残っていない。フン族には文字がなかったので、彼らによる年代記というものがまったく残っていないのだ。
あれほど広大な帝国がほとんど何の文献的痕跡も残さなかった。
しかも、完全な騎馬民族だったので、部族主義や帝国版図の拡大志向というのも実はなくて、ギリシャ人、トルコ人も含むいろいろな民族がアッチラの参謀であり将官だったらしい。語られていた言葉も分かっていない。そして、ローマ帝国に対しての場合と同様、実利主義で、コスパが悪いと判断すればすぐに撤退することを厭わなかったという。

五世紀前半の人だけれど「神のわざわい」、悪魔とヨーロッパで語り継がれたのは七世紀以降ののキリスト教の文献によるものだ。

アッチラは最強の獰猛な戦士だったのに「戦死」せず、ゲルマン人の若い新妻と過ごした夜に食べたものを吐いて窒息死した、毒殺されたなどとも言われているそうだ。その遺体の墓所設営に携わった者は、場所を知られないようにみな殺害されたという。
で、フランス語では、フン族はLes Hunsでも「アン」と発音し、ハンガリーはオングリーだからぴんとこないけれど、フン族によって成立した国家というアイデンティティがあるのだそうだ。
私は漠然と、ハンガリーと言えばマジャール人、だからハンガリー語は他の印欧語とも違うし、アジアにルーツがあって、などというイメージがあったけれど、九世紀にハンガリーにやってきたマジャール人がフン族と関係があるかは分かっていないし、そのどちらもモンゴルにルーツがあって後のモンゴル帝国と結びつけられたりしているが定かではないようだ。
ところが、なんと、ブタペストには、アッチラの墓と称されるところがあるそうだ。ネットではTapioszentmarton村という名も挙がっているし最近発掘されたという記事もあるのでいったいどれがそうなのかわからないけれどTVでは、公園のような場所が移されていて、なんとそこで人々が横たわっているのだ。特別なオーラが放射されていて病の治癒に「効く」のだそうだ。
ハンガリーと言えば野外の温泉の光景も浮かぶから、湯治の習慣もあるのかなあと思ったけれど、アッチラの墓での健康法とは。
俄然行きたくなった。

個人的に、カスピ海沿岸もイランもハンガリーもばらばらに縁があるのだけれど、それがなぜかつながった気分だ。

それにしても、五世紀って、文献さえあれば、そう古代の話でもない。その時代にあれほどの一大帝国を築いたアッチラがヨーロッパ史からある意味「消えてしまった」のは驚きだ。

知りたいことがたくさん出てきた。


by mariastella | 2020-06-17 00:05 | 歴史
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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