「お年よりを守る」
最近気になったこと。
そのうち考えてみたいけれど忘れないうちに覚書。 Covid19の感染拡大を防ぐということでの各種の自粛要請に、あなたは無症状でも感染者かもしれない、お年寄りや持病を持っている人にうつしてはいけない、高齢の親との同居には要注意、田舎の祖父母に会いに行くなどは自粛など、というキャンペーンがあった。 高齢者のことを気にかけないで遊びまわる無責任な「若者」たちを諫めるべきだとか。 私は個人的には、重症化しない若者たちが集団免疫の楯になってくれればいいと思うし、何より、若者が若者らしく自由にふるまうのを長期にわたって制限したり、罪悪感を与えたりするのは不健全だと思っている。 といっても、前期高齢者の私自身が、後期高齢者の方とか、もし今まだ両親が存命だったらと思うと、すごく注意する気にはなる。 ところが、その「お年よりを守る」というお題目の反動か、近頃は、「お餅を詰まらせても、熱中症でも毎年お年寄りがたくさん亡くなっているのに、犠牲者数の圧倒的に少ないコロナにだけなんで大騒ぎするのだ」、という声があちこちで上がってくるようになってきた。そもそも高齢で持病がある人がコロナで重症化して亡くなるのは寿命なのであって、大騒ぎするようなことではない、とも。 むしろ日本は、他の年代での交通事故の方が多くても、高齢者の運転する交通事故だけを目立って取り上げて、高齢者に「社会の迷惑」的プレッシャーをかけている感じだから、「お年寄りのせいで若者が犠牲になる」のが本当は嫌なのではないか、と思ってしまう。 思えば、「お年寄り、持病のある人」、つまり「相対的な弱者」を守るために自粛する、というキャンペーンは、明らかにヨーロッパから始まったように思う。 武漢の封鎖の時にそんなことは聞いたことがない。むしろ、障碍者が閉じ込められたまま餓死したケースとか、Covi19以外の病気、老い、障碍を持った人たちが一律に無視されて大変な苦しみを味わったような感じがする。今となっては新型コロナによる中国の死者数は「大したことがなかった」わけだから、コロナ以外で亡くなった方の数が圧倒的に多かったのではないかと思う。 で、中国式の封鎖を受け入れるなどと程遠い気質のヨーロッパ諸国が都市封鎖をして、それが受け入れられたときの金科玉条が「お年寄りや持病のある人を守るため」だった。フランスは特にいわゆる医療崩壊は防げているから、年齢による医療差別はともかく表には出ないですんだ。 で、規制解除後も、「お年寄りが、お年寄りが」と言い続けている。 そしてこの呪文が浮かび、効を奏した背景には、やはりキリスト教的集団無意識への刷り込みがあるからかもしれない。 人間のどの社会でも、共同体の社会進化論としては、昔は「生産性のない」年寄、病人、障碍者などを養う余裕はなかったわけで、淘汰しないと共同体が滅ぶ。「楢山節考」的な典礼化した淘汰の伝統というのは、人類学的に見るとあちこちに見られてきた。そんな世界で、病んでいる人を見舞い、飢えている人に食べさせ、渇いている人に飲ませ、宿のない人を迎え、それらの弱者の一人ひとりがイエス・キリストなのだ、天国に迎えられるのだという革命的なことをイエスは言った。 その後、キリスト教はローマ帝国の国教になって政治権力のツールになったけれど、弱者に寄り添って自らも侮辱され処刑されたイエス・キリストの姿が磔刑像で可視化されている限り、「弱者救済」は、キリスト教文化圏の文化DNAに組み込まれてきた。だからこそ、「お年寄りを守れ」というお題目が受け入れられたのだ。 で、日本が同じことを言い出したのは、武漢由来ではなくて、ヨーロッパ由来だと思う。 日本や中国にも年長者を敬う儒教文化があるではないか、とも思ったけれど、儒教文化における長幼のヒエラルキーというのは、結果として「年を重ねた支配階級」向きになっているような気がする。 「先生」=「先に生まれた」人が権力を行使したり、先輩が後輩をいじめたり、老師匠に絶対服従したり、言ってみれば年寄の既得権死守と結びついている場合も多そうだ。無産階級では老人支配はもとより成立しない。店を継ぐ、田畑を継ぐ、財産を継ぐ、特権を継ぐという時に「先代」が意味を持つ。それなのに、昔は「特権」と結びついていた「苗字」が明治時代にすべての人に与えられてから、無産階級でも「家名」だの「戸籍」などで継ぐべき所有物があるかのような錯覚があって、「家長」を頂くヒエラルキーができたので、その中で「敬う」年寄は権力勾配の上に位置するわけだ。 弱者、病者の中にイエスを見て仕える、というのとは違う。 情報があっという間に共有されるグローバル化した世界でのCovid 19にまつわる言説とその背景には、実は大きな欺瞞やねじれもあるのではないだろうかと思えてきたのでここにメモしておく。
by mariastella
| 2020-08-29 00:05
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