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L'art de croire             竹下節子ブログ

事件の現場

久々に「外」に出て、晴れ晴れした気分になれたバカンスの話はまだ続くけれど、実は、その途中で、思いがけない「事件の現場」に遭遇することになった。

フランスのニュースを見ている人なら8月の終わりごろから毎日のように報道されていた「嫌な事件」のことを必ず知っていると思う。
目をそむけたくなるようなものだ。

それは、フランスのあちらこちらで、「馬」が襲われているという事件だ。
殺されたものもいるが、みんな「切られて」いる。
特に耳を切られるものもいる。
犯人も分かっていず、犯行の理由も分かっていなかった。

それでもあまり深く考えていなかった。考えたくもなかった。
動物虐待のサイコパスの仕業なんだろうと思っていた。
 
ところが、プルターニュのラニヨンの近くの牧場に連れて行かれて驚いた。
8/28のことだったけれど、その2日前にそこにいる7頭の馬のうち1頭の耳の下が深く切り込まれていたというのだ。
若いカップルと6歳の娘のいる家族で、夫は動物の長距離輸送をしていて留守の時だった。
妻はFacebookを立ち上げて、互助のグループを作った。前の日の夜、娘を家において自分は犬と一緒に車で寝て見張った。民間の警備会社にも頼んでいる。一晩ひとり2万円くらいかかる。彼らも犬を連れている。

で、28日の夜は夫が帰ってくるから警備員を頼まない、とFacebookに書いたという。それを読むだろう犯人を罠にかけるためで、実は6人を雇っていた。

前日は逃げられたけれど、3人組が目撃されていて、ひとりは車の中で待ち、2人の実行犯は、1人が元屠殺場で働いていた人、もう1人が元獣医のところで働いていて窃盗で解雇された人、というのがほぼ特定されているという。凶器はメス。

驚いた。

確かに、切りつける相手は牛や羊ではない。放牧されている馬となると、近づくのも難しいし蹴られることだってあるだろう。

だから、馬を扱いなれていて、切りつけ方も知っている人が犯人なのだ。

動機は分かっていず、馬の耳や内臓その他のコレクション、闇のSNSでのコンクール、疫病退散に馬の耳が過去に使われていた民間信仰がコロナ禍で復活した(馬の耳は血管が集中していて、その血を飲む?)、カルト宗教、復讐、愉快犯、模倣犯などいろいろ考えられるかその複合だという。
2012年にイギリスでもあったし、フランスではコロナによるロックダウンの前に少し始まって、外出規制が終わってから増えだしたという。

牧場でコーヒーをいただいている間にも、ニュースチャンネルからひっきりなしにコンタクトがある。
事件の現場_c0175451_07014460.png
向こうに馬が見える。

小さな娘は三匹の牧羊犬と遊んでいるけれど、ロックダウン以来もう半年も学校へ行けていない。

事件の現場_c0175451_02462332.jpeg
すごく怖い話だ。結局その夜は、犯人たちがまずドローンを飛ばして、警備員がいるのを見つけたので逃走したらしい。次の日の夜は、ひとりを追いつめたけれど、敷地内ではなかったので捕まえる権利がないので警察が来るまでに逃げられてしまった。何ヘクタールもあるし、塀で囲まれているわけでもないから、完全に見張るのは不可能だ。アメリカのような銃社会だったらどうなるのだろう。

9月に入ってからは馬を家の近くに集めるなどして、一応落ち着いたようだ。
毎日、報告がきた。(彼ら親子とは、子供の曽祖父母の家で2月にいっしょに食事をしたが、牧場に行ったのは初めてだ)
今回私が寄った時は、一番緊張が高まっている時で、ストレスが最高潮で、前日一睡もしていない母親と無邪気に遊ぶ子供のコントラストを見ているとくらくらした。

9/6にこの件のドキュメンタリーが放映されて、そこにこの親子も登場するので視聴したけれど、やはり馬の傷などがショッキングで目をそむけてしまった。

(記録のためにここにリンクしておくけれど、残酷なものが苦手な方は視聴しないでください。10分21秒に親子が出てきます)






by mariastella | 2020-09-14 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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