ティファニーで朝食を
先日、新作映画を久しぶりに観に行こうかと思っていたのに、上映時間が限られていて、行く気をなくした。3月から5月まで映画館が閉鎖していたから、新作がたまっていて、シネマコンプレックスのひとつの上映室でも二部制とか三部制になっていたのだ。ちょうどいい時間帯がなかった。
で、久しぶりにテレビで映画を見ようとしたら、Arteで『ティファニーで朝食を』に出くわした。 いやあ、半世紀以上ぶりに観た。 しかも、邦画題名としては珍しく、『ティファニーで朝食を』は原題に忠実なのに、フランス語版では『長椅子の上のダイヤモンド』となっていて、一瞬ぴんとこなかった。 ティファニーのブランド名はこの映画によって日本人に焼き付けられたと思うけれど「NYの宝石店」というインパクトは、フランスではやはり「違う」のかなあと思った。 しかも、フランス語の吹き替えだったので、なるほどなあ、と思うものもあった。 例えばヒロインの名はホリーというのだけれど、これはそのままではフランス語ならオリーとなって、名前らしくない。で「ドリー」に変えられている。 主人公のふたりがどんなに親しくなっても、最後までVouvoyer、つまり互いを敬称で呼び合っているのも、面白い。(普通のラブコメディでは途中で親称になると関係が変わったというサインになる) ポリコレの時代になってからはミッキー・ルーニーが「謝罪」したとかいう日本人のユニオシという隣人のカリカチュアぶりが何度も出てくることも全く記憶になかった。熱い風呂に入っていて、着物姿で床に寝ているというのはまだしも、本当の日本人だったら、隣人がどんなにやかましくてもじっと我慢していたり、表面はにこにこと取り繕うだろうに、と思うと、完全にアメリカ人によるアメリカ人のための「日本人」像なんだなあ。それにしても、ドリーを取り巻く男たちに比べて、日本人がこんな風に配されていることに当時の日本人は何も思わなかったんだろうか? まったく覚えていない。 誰もかれも何かというとタバコを取り出して、パーティは煙がもうもうだし、ベッドでも吸っているし、歩きたばこも、吸い殻のポイ捨ても全く平気なので、これも隔世の感がありすぎる。 オードリーが本当にギターをつま弾きながらムーンリバーを歌うシーンは、ジーンズをはいているし、あまり古くならないことも分かった。マイ・フェア・レディの吹き替えが記憶にあるので、生で歌っているのがかわいい。 そして何よりも驚いたのがこれが実は「猫」映画だったってところだ。 昔この映画を観た頃の私は犬を飼っていて、自分は「犬派」だと思っていた。 そのせいか、この猫の記憶がまったくない。 名のないこの猫、うちのガイアくんや今のナルくんにも似ている。 ひとりでお留守番している時にはキッチンの流しの中に入るところはイズーくんに似ている。とにかくかわいいし、よくしゃべるし、最後には決定的な役割を果たす。 そしてラストの抱擁シーンでは二人の間にぎゅっと抱かれている。 主人公ポールの女パトロン(パトリシア・ニール?)は、プードル犬を飼っている。 この対比は、金のある女が売れない作家を金で買って飼い犬のように支配するという構図と、金のある男に金を出さそうとするドリーの「猫」性に通じる。 「猫」は自分のかわいさだけで、「猫好き」にかしずかれることを知っている。 ドリーが最後に猫を「捨てる」のはそんな自分の否定であり、そんな自分を愛してくれるポールの否定でもあったので、決定的な危機だった。結局、ポールもドリーも、互いを捨てて猫を追う。 自分を必要としてくれる小さなものに目を向け合うことが、互いへの愛の確認にもなるというわけだ。 記憶や期待とは違った意味で「再発見」した映画だった。
by mariastella
| 2020-09-16 00:05
| 映画
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