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L'art de croire             竹下節子ブログ

faveur immérité

私は時々、Google Traduction を使う。

便利なのは、戦艦の種類や武器の種類など、考えても分からない分野の単語を日本語にする時だ。普通の単語の場合は、文脈によっていろいろな意味があるのに一種類しか出てこないので役に立たない。最近の専門語も、フランス語の意味が分かっても、日本で普通に使われている訳語を確認するのに役立つ。その逆もたまにある。
カタカナ語だから、そのままだと思って使っていたら、フランス人には通じていなかったということもあるのだ。例えば、カリウムという言葉。私は「カリウムを摂るためにバナナを食べなきゃ」などと言っていたけれど、カリウムは、英語でもフランス語でも「ポタシウム」(Potasium, potassium)というのだ。元素記号はkaliumのKなのに。ドイツ語はカリウムだそうで、たいてい反目する英仏語がポタシウムを採用しているというのはおもしろい。

本当に特殊な単語はGoogle Traduction (以下GT)では出てこないので、自分で意訳する。

フランス語から日本語よりも、フランス語から英語や、英語から日本語への方が充実しているので、いったんフランス語から英語を調べて、その英語から日本語を探す、ということもある。

まあ、全体としては、大した役には立っていないし、期待もしていないし、もちろん単語でなく文を入れたりするとまったく理解不可能な代物が出てくる。

でも、たまに、フランス語の意味はもちろん分かっていても、いい日本語が思いつかない時に、なんとなくGTに入力することがある。ヒントが得られることもあるから。

先日、faveur immérité という言葉を日本語にしたかった。

どういう文脈かというと、神から受ける恩恵のことで、人間は善行や忖度をした対価、見返り、論功行賞として神からよくしてもらえるのではなくて、神から先に無償で愛を受けている。それどころか、神に背いたり神のもとから去って悪行を繰り返しても、神の方に向き直るだけで喜んでもらえて愛情をかけてもらえる。「放蕩息子の帰還」というやつで、放蕩したあげくに打ちひしがれて戻ってきても、もろ手を挙げて迎えてもらえる。

immérité というのは、メリットの否定形だ。
もし神と人との関係がメリトクラシー(功績主義、実力主義)なのなら、努力した成果に見合った幸せをもらえるという感じになる。供物や犠牲を捧げたり、必死に祈ったり、教えに従ったりすれば報われる。でも、キリスト教の神はそうではない。

ところが、faveur immérité を入力したら、日本語に「当然の恩恵」と出てきたので目を疑った。
正反対だ。
GTは信頼していないけれど、これはあまりの初歩のミス。理解できない。で、フランス語を英語にすると、ちゃんと「undeserved favor」と出てくる。今度はそのundeserved favorを入れて日本語に訳させると、やはり「当然の恩恵」となる。

驚いて、immérité だけを入れると、ちゃんと「不相応」と出てきた。

「不相応な恩恵」

悪くない訳だ。試しにundeservedを日本語にしても、ちゃんと「不相応」と出てくる。 同義語として not warranted, merited, or earned というのも出ていた。

それなのにどうして、undeserved favor にすると「当然の恩恵」となるのだろう。
AIさんのバグなんだろうか。これがこうなっているということは、GTの中には他にもいろいろ明らかな「語訳」が混ざっているということだ。
この訳なんて、神学的にすごく重要なのに反対のことを言われたので、GTにだまされる人っているかもしれない、と思ったのでここに書いておくことにした。

ついでに「当然の恩恵」の英語訳は「Natural benefits」で、
「不相応な恩恵」は「Disproportionate benefits」と出てきた。
なるほどね。

faveur immérité  って、すごく好きな言葉なんだけれど。




by mariastella | 2020-09-20 00:05 | フランス語
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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