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L'art de croire             竹下節子ブログ

マスクと赤信号  日仏比較

今のフランスでは、屋内は会社でも全員マスク着用が義務つけられているし、都市部では屋外も一律にマスク着用義務となっている。

テレビ番組では例外が認められているので、司会者、ニュースのキャスターやらコメンテーターやらはマスクなしで登場する。一応、推奨されるソーシャル・ディスタンスは守られているけれど、画面が仕切られてすぐ隣同士にいるかのように映されることが多い。もちろん、番組に招かれてマスクを着けたまま登場する人もたまにいる。そんな時、かなり共感の持てる解説をしてくれても、表情が分からない、というのはフラストレーションが残る。ラジオなら何も思わないのに、なまじ「映像」があるのに表情が分からないのは違和感がある。

不自然だなあと思うのは、「特派員」による外からの中継などで、明らかに周りに誰もいない場所からでも、マスクを着けてマイクを握っていることだ。屋外でもマスク着用というのは分かっていても、スタジオのように例外が認められないのだろうか。

フランスの大都市圏で交通機関だけではなく、戸外でも私的空間以外の屋内でも仕事場でもマスク着用義務が発令されてからもうずいぶん経ったような気がする。
多くの人が「守っている」けれど、その光景に慣れることはまだ私には難しいし、つい忘れて外に出て、他の人のマスク姿を見てあわててマスクを取りに戻ったことも何度もある。心理的に助かるのは、そうやってマスクをするのを忘れても、他の人の視線は感じなくて済むということだ。マスクをしている人を見て驚いて気づくのはこちらだ。

日本の大都市では着用義務がないのに、人目のあるところでマスクをしていないといっせいに見られるというような「同調圧力」のことをよく聞くので、少なくともそれはないとほっとする。

それで連想するのは赤信号だ。
フランスでも日本でも、交通規則は法律であり、それを違反すると罰則規定がある。
フランスでも、誰もいない道でも、車が信号無視するとレーダーに引っかかって罰金通知が送られてくる。
でも、それは特に車同士の事故や車が歩行者に害を与えることを防ぐための法律だ。

で、フランスでは、一般に、歩行者が道を渡る時、車が来ないかどうかを真っ先に見て、車が走っていればもちろん青信号に変わるのを待つけれど、車の姿がなければ赤でも渡る。
横断歩道でなくても、車が見えなければ渡る。
子供連れでも、ベビーカーでも、みんなたいていそうしているので、「教育に悪いなあ」とは思うけれど。

フランス人がイギリスに暮らすことになると、「イギリスじゃ横断歩道を絶対に渡るるんだよ、そうしないと車が止まってくれない」とよくアドヴァイスを受けるから、イギリス人は違うのだろう。ドイツ人もなんとなく信号を守りそうだ。

で、そんなフランスにずっと暮らしている私も、日本に行けばちゃんと信号を守る。
でも、ある時、考え事をしていて、表参道の方から歩いてきて原宿駅前の横断歩道の前に出た。道幅は数秒で渡れるくらいに狭いし一方からしか車が来ない。
いつも通り、道路のこちら側にも、反対側にも、駅に向かう人、駅から出た人たちでびっしりと埋まっていた。
でも、車の影はまったくなかった。私はそれだけに反応して何も考えずに通りを渡ろうとした。
3,4歩前に出た時に、後ろからも前からも、人々の射るような視線を感じた。
誰一人動いていない。私だけが動いている。
我にかえって、あわてて引き返した、と思う。
あまりにもショックを受けたので自分がどうしたのか覚えていない。
車が通っていなくてまったく危険がなく、誰にも直接迷惑をかけたとか邪魔したとかいうわけでないのは確かだ。
「交通規則」を守らなかった、というだけだ。

ある時は、表参道を横断する時、これはかなり道幅が広いから注意すべきだけれど、その時は車も通らず、横断歩道のどちら側にもほとんど人がいなかった。でも、日本だからちゃんと青信号になるまで待つはずだったのに、私の前にいた人が自然な感じで渡り始めて、私もそれにつられて渡り始めた。途中まで来て、「えっ、ここは日本だ、あり得ない」と気づいて驚き、渡った後で、前の人を追い越して確認してみた。「白人」だった。思わず「フランス人ですか?」と聞きたくなったけれどやめた。でも「日本人ではあり得ない」と思ったのは当たっていた。

それにしても、「車が一台も見えないところでみんなといっしょに信号が変わるのを待たなかった」ことを視線で「制裁」された記憶があざやかなので、コロナ禍における大都市の「マスク警察」の雰囲気が実感を持って分かる気がする。
屋外で数メートル離れて歩いている場合でも、マスクなしでは視線による制裁があるし、時には、写真を撮られたり、「通報」されかねない。「他の人に不安を与えるのが悪」というコンセンサスすらあるようだ。

フランスのマスク着用義務は罰則付き。
罰則をつけないと、フランス人が「規則を守る」とは思えないから、という理由は分かる気もする。
赤信号でも、車が来る可能性がまったくない横断歩道を渡るというのは、「自己責任」の問題ではなくて、どうして「交通規則が存在するのか」という基本に照らして合理的な行動で、フランスでは「普通」だし、誰も罰せられない。

まったく感染するリスクも感染させるリスクもなさそうな戸外でマスクを外すのも合理的だ。罰則付きだと警察やガードマンらに遭遇するリスクはあるから、マスクをつける。それでもつけていない人はそれこそ自己責任で「罰金を課せられるリスク」をとっているだけであり、マスクをつけた他の人の関心を特にひかない。

この「空気の差」と「コロナ対策としてのマスク」の実態って、赤信号のことを思い出すことで、ああ、日仏のメンタリティの差ってほんとにあるんだなあ、と今さらながらに気づかされた。

そういえば、「赤信号、みんなで渡ればこわくない」なんていうフレーズも昔あったっけ。


(これを書いたのは数日前ですが、その後フランスは2度目の外出規制に突入することが決まりました。小中高校の授業は続けられるそうですが、コンセルヴァトワールやバロックバレーやトリオの練習も生徒のレッスンもまたなくなるでしょうし、フランス最大のファミリーイベントであるクリスマスもどうなることやら。)




by mariastella | 2020-10-30 00:05 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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