アメリカの大統領選、今年はコロナ禍とBLMのせいで一触即発の雰囲気だったので、フランスのニュースでも、アメリカの様子が毎日流れていた。
前にも書いたけれど、フランスでアメリカのニュースやルポルタージュや解説番組を見ていると、日本と違うなあと思うのは、フランス人の現地特派員のレポートだけではなく、アメリカ人ジャーナリストやコメンテーターでフランス語のバイリンガルの人がかなりいて、興味深い見方を通訳や翻訳なしで語ってくれることだ。
日本なら、アメリカ人で日本語のバイリンガルというと、もともと日本好きで日本にずっと住んでいるなど、ある意味マイナーな人たちだけれど、フランス語のバイリンガルのアメリカ人というのは、親ヨーロッパのインテリで、インテリとしてはメジャーな人たちだ。アメリカの中枢がヨーロッパからの移民でできているのだから当然だし、アングロサクソン系白人は、フランス語を第一外国語に選ぶことが多かった。ヒスパニックも、スペイン語とフランス語は同系列のロマンス語だから使いやすい。
で、こうしてアメリカの大統領選における分断ぶりや熱狂をフランスから見ていると、まさに信じられない。まず、大統領選の広報費が莫大で企業献金も莫大で、リミットがない。フランスは規制があるので、全てすごく地味だ。そして、決選投票になっても、フランスでは両陣営がヘイトまがいの中傷をし合うなんてことはないし、ペンシルバニアなどのように、住民が危険を感じて自衛のために銃器店に走るなんてことももちろんない。
そして、NY。
新形コロナのせいで、ロックダウンしていない通りも閑散として、多くの店や劇場が閉鎖され、失業者が増えて犯罪が増え、路上生活者も増えている様子が映し出されると胸が痛む。富裕層は町を去るから、高級アパルトマンもがらがらだ。
「2001年の9・11はもちろんすごいショックでした。でも、終わりがあった。このコロナは、まるで高いタワーが少しずつ崩壊していって、町も住民も下敷きになっていくかのようです」と語る住民の表情は空ろだった。
NYは、「アメリカ」と違って、多様な人が集まる国際都市独特の自由さを誇っていた。アーティストや研究者も世界中からやってくるので、普遍主義の最前線という感じがあった。だからこそ、トランプの出身地でトランプタワーがそびえているのに、民主党支持の都市だったのだ。
そのNYの様変わりを見せられると、いくらロックダウンだ、黄色いヴェスト運動だ、テロの危険だ、などと言っても、パリなんて、基本のんきで平和だなあと思う。
「欧米」が地理的にも歴史的にも文化的にも遠かった日本とはまた違うけれど、フランスの世俗主義の雰囲気と日本の世俗主義の雰囲気もよく似ている。
移民と先住民の抹殺と奴隷制の歴史を持つ国ののメンタリティと、千年以上前から一定の文化や伝統に浸りながら変異してきた日本やフランスのような国のメンタリティは根本的に違うんだなあという気がする。
でも、そういう想像を絶する国が、世界一の経済大国、軍事大国で、アメリカの一挙一動が世界中とつながっている。
今のフランスとトルコの緊張関係にしても、トルコの背後にはアメリカがいるわけで、NATOのアメリカ兵器はトルコに据えられている。フランスにとっては、いろいろな国際協定を離脱したりパレスティナを軽視するトランプよりもバイデン大統領の誕生を期待するのは明らかだ。
この記事を書いている時点では、まだ結果が分かっていない。
一体、どうなるんだろう。