『レバノン――不思議な国の誕生』
ベイルートで大爆発が起こった時にマクロン大統領がすぐに駆けつけたことを「宗主国」面をして、と揶揄する形容があったのを思い出す。でも、あの災害がレバノンの団結を強めたような感じは確実にした。
この本で、あらためて、フランスとレバノンのことを考えさせられた。
大統領がキリスト教(マロン派カトリック)、首相がイスラム教(スンニー派)だという1926年の共和国成立の頃からのしきたりが、文書によるものではないということもあらためて納得した。
「共和国」であるなら本来そのような宗派別の棲み分けを条文化することなどあり得ないのだ。
で、1918年からの20年で、レバノンの全てのインフラ(電気、ガス、水道、道路、港、鉄道)を整えたのがフランスで、ベイルートは本当に中東のパリだったのだ。でも、マロン派とスンニー派は最初から分断されていて、戦後も、マロン派はフランスのドゴール大統領の方を向き、スンニー派はエジプトのナセル大統領の方を向いていた。それでも、長い時間をかけて、レバノン・ナショナリズムという国家意識が育まれていったこととフランスの役割は切り離せない。
著者のFrançois Boustani は、高名な心臓医で、医学生だった時に内戦のレバノンから亡命してフランスのモンペリエ大学で学位を取り、ヨーロッパとオリエントについて様々な著書を発表している。こういう書き手がいてフランス語で読めるということがありがたいとあらためて思う。
レバノンの内戦は悲劇だったけれど、イランのホメイニ革命も同じで、多くの人が移民難民として国を出てネットワークをつくった新しい次元の力に支えられて、 歴史を見る目を私たちに提供してくれるのは無駄ではない。