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L'art de croire             竹下節子ブログ

フランシスコ教皇とアヤトラ・シスタニ

3/5-7、ローマ教皇フランシスコがコロナ禍の「終息」を待たずに予定通り、アブラハムの生地であるイラクを訪問した。このことは、カトリックだけでなく世界中のキリスト教が期待していた朗報だった。そしてイラク国内でも、カトリックに準ずるカルデア派はもちろん、他のキリスト教やマイナー宗教でISの迫害を受けた人々ももちろん歓迎した。イラクのキリスト教徒はひどい迫害を受けて国外に四散したが、教皇のよびかけが憎しみや報復でなく「赦し」と学びであることは言うまでもない。


人口の60%を占めるシーア派の最高指導者であるアヤトラ・アル・シスタニとの会見(シスタニの自宅)は特に期待された。

84歳と90歳だ。

シスタニはめったに家を出ることもなく、誰かと会う時に椅子から立ち上がらないのだが、今回は立って教皇を迎えること、教皇は靴を脱ぐこと、などというプロトコル合意が発表されたけれど、会見の様子はオフレコで分からない。

シーア派のアヤトラというとイランのホメイニなどを連想して、原理主義的なのではないかと思っていたけれど、実はシスタニは、政教分離派なのだそうだ。同性愛については全て弾劾していたけれど、最近、男の同性愛については大罪リストから外したそうで(レズビアンは残している)、話し合いの余地のない教条主義者などではなさそうだ。権力という意味でも、イランからの移住者であるこの1970年から500ドルで借りている賃貸住宅に住んでいる(子供が二人いるそうだ)ので、イランのホメイニやハーメニなどとはまったく異なる。で、多宗教共存による平和をずっと望んでいるということで、フランシスコ教皇との出会いに期待していたようだ。


デジタル環境が発展した上に、コロナ禍で多くの会議や講演、公演などがヴァーチャルになっている今でも、「生身の出会いによってしか生まれない成果」というものがあると教皇は信じている。神が人に「受肉」したとするキリスト教の根本でもあるだろう。

世の中には、年をとっても権力にしがみついたり世襲に期待したり、「老害」と呼ばれたりする人が少なくないといわれる。でも、84歳と90歳の宗教リーダーが、アブラハムを共通の祖先とする一神教の「同胞」としてただ「平和」を望むことを表明してくれるのは頼もしい。


そして、シスタニの政教分離原則を聞いていると、そういえば、米英軍が侵略する前のイラクは、政教分離の共和国で、スンニー派であるサダム・フセイン大統領の右腕がカルディア・カトリックのタレク・アズィズだったことを思い出す。多宗教の棲み分けと政教分離が当時すでにストラクチャーに組み込まれていたのだ。だからこそ、2003年以来の国の崩壊とテロリズムの横行、ISによる侵略などを経て20年近く経った今も、「政教分離の共和国」の記憶が残っているのだともいえるだろう。

全てはイラクから始まった。イラクで希望が生まれれば、それがシリアにも光明をもたらすかもしれない。

2019年のアフリカ訪問も教皇の身の危険が心配されていたけれど、さらにテロの危険が高いイラク訪問を84歳の教皇が今回果敢にやり遂げることができたことに感謝の気持ちがわいてくる。

思えば、「アブラハムの一神教」とはいえ、イスラム教とキリスト教は最初から協調が難しかった。イスラムが生まれた7世紀、アラビア半島の東側はササン朝ペルシャ、西側はビザンティン帝国が支配していて、その間の空白地帯というか混在地帯でイスラムは「改革ユダヤ教」という感じでユダヤ教にインスパイアされていた。ササン朝ペルシャは二元論的ではあるけれど、アフラマズダという最古の一神教を掲げていて、ユダヤ教と同じく「偶像」を禁止していた(拝火教と呼ばれるように神の姿の代わりに聖火を灯していた)。


イスラム教は、メディナでムハンマドが宗教の長から軍事の長になった時に、戦争のための政治的共同体を形成したのだけれど、その時に、ビザンチンと戦うために、ササン朝ペルシャを通してユダヤ人と同盟を結ぶことになった。初期のイスラムの軍隊の四分の一はユダヤ人だったという。でもそれから一年と少しでユダヤ人と決別する。それと同時に、イスラム教の礼拝はイスラエルの方角ではなくてメッカの方角へと向きを変えることになった。


ともかく、最初のイメージとしては、拝火教も、ユダヤ教も、イスラム教も、「偶像」崇拝、神像やましてや受肉した神の子などの崇拝を排する一神教としてある種の親和性があったわけで、キリスト教がその意味で「異端」で「不浄」だったのは確かだろう。

でも、キリスト教は、ともかく、「正義」が「悪」を武力をもって征伐するという形をとらずに、「神の子」が自らを犠牲に捧げたところから出発した宗教だった。

「勧善懲悪」というのは、桃太郎からセーラームーンまで、ブッシュのアメリカからイスラム国のテロリストたちまでを鼓舞するモティヴェーションなのだけれど、「絶対の正義」というものは人間の知で判断できるものではないのだから、とりあえず、「武器を捨てて話し合う」というフィールドに「知」を投入したいものだ。


フランシスコ教皇とアヤトラ・シスタニの上にそれぞれの聖霊が降りてきたことを期待したい。


by mariastella | 2021-03-08 00:05 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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