セザール賞と紅白歌合戦3/18、昨年のロックダウンからまる1年経った後で、パリ地方の3度目のロックダウン(3/20から4週間)が発表された。その前の週、フランスのアカデミー賞であるセザール賞の授賞式が中継された。去年はロックダウンの直前だったのに密で皆がハグし合っていたのに今年は一般客はなしで皆が客席ではマスクをしているという光景が不思議だ。 去年はポランスキーの受賞に対してフェミニストの大ブーイングが起こって後味が悪かったけれど、今年もまたデータさえ正確でない映画界の女性差別(特に40歳以上の女性差別)が女性によって攻撃された。 ひと昔前は、アジャーニなどが政治的発言をしても、アカデミー賞のお祭り騒ぎと違ってリベラルで社会性のあるフランスのアーティストを好ましく思っていたけれど、今は、アカデミー賞も、セザール賞も、ポリコレ・イデオロギーとロビーイングの場と化している。 3/17付のカナール・アンシェネ誌のひとこまカリカチュアには笑えた。
「同性愛で障碍を抱えた黒人女性が主演男優賞を獲得しない限り満足することのないセザール式典」
というものだ。確かに。なんでこうなったのだろう。
私がはじめてセザール授賞式の中継をみたのは40年以上前でまだはじめの頃だった。印象的だったのは、ミシェル・ルグランがステージの上のグランドピアノに向かって、即興演奏をしたのだが、それはその場にいた彼の仲間たちが普段自分たちの自宅サロンで繰り広げられている光景であるようだったことだ。なんだか「内輪」の会話をしている。 エリート・ブルジョワ文化人のブライヴェートがごく自然に繰り広げられて、そこには大衆やスポンサーへの迎合が寸毫もなかった。 その頃読んだ記事に、「日本では高学歴のTV制作者が大衆目線で浪花節的お祭り番組を作っているが、フランスでは高学歴のTV制作者が自分たちのレベルで番組を作っている」というものがあって、なるほどと思ったのを覚えている。 フランスの番組は別に上から目線というものでもない自然体で、「大衆」もTVとはそんなものだと思って普通に見ていた。まあ、その頃は、フランスのTVはほぼ公営でチャンネルも三つしかなく、普通の家庭では白黒の小型テレビが主流だったので日本から来た私は驚いた。(日本ではカラーテレビが主流で東京では7つのチャンネルがあったから) 時は経ち、アメリカのTV番組もフランスでいくらでも見られるようになった。フランスの番組も大衆化した。 で、いつのまにか、セザール賞もアカデミー賞を意識して、歌や踊りのエンターテインメント路線に舵を切った年もあって驚いたけれど、やはりそれはフランスの映画界のメンタリティとは合わないと思ったのか、また簡素なものに変わった。その中で、政治的、社会的発言もあって、フランスらしいリベラルなスタンスが保たれていた。 それが、衛星放送やデジタル放送、インターネットの普及などによって、いつのまにか、再びアメリカ化していた。グローバル・スタンダードというやつだ。しかも、そのアメリカの各種セレモニーが「セレブのお祭り」路線から、ポリコレ・ロビーイング路線に「変異」していたので、フランスのそれも、それまでの「普遍主義」路線から「共同体主義」路線に「変異」していたというわけだ。 まあ、それに比べると、日本などしっかりと「浪花節路線」は存続していて、「紅」と「白」の「合戦」という祭りも残っているのだから、やはり島国文化の強さというか、ジェンダー平等指数が「先進国」最低というのは、ある意味で感心する。 日本アカデミー賞などは見たことがないので知らないけれど、「紅白」は子供の頃も、フランスに来てからも見ている。(昔はパリの日航ホテルなどで上映された) で、昨年末の紅白歌合戦をDVDで視聴したのだけれど、熊本豪雨の被害や被災者への思いと励ましが基本トーンだった。その「みんなが寄り添い思い合って」という挙国一致合意路線の揺らぎなさに驚いた。 そもそも日本は自然災害による死者や行方不明者が世界的に見ても多い国で、国土の面積は全世界の0.28%なのに全世界で発生するマグニチュード6以上の地震の20.5%が起こり、全世界の活火山の7.0%があり、全世界の災害で受けた被害金額の11.9%が日本のものだそうだ。地球の温暖化や異常気象のせいか台風や豪雨の被害も増えている。 しかもネット環境によってそれらの被害がリアルタイムで可視化されるから、目に見えない新型コロナウィルスなどよりずっとインパクトがある。 去年一度も日本に帰国できず、地震も台風もないパリ地方で「自粛」していた私にはコロナ禍が最大の災厄に見えていたけれど、紅白歌合戦とセザール賞の対照的な雰囲気を見た後では、日本のがんばりにすなおに敬意を抱いた。 もちろん、アメリカやロシアや中国のように広大な面積の中にありとあらゆる自然条件を抱える国とはまったく比較にならない。 自然災害の条件を無視した文化比較は成り立たないのだ。 そんな日本、天災に立ち向かうのも大変なのに、「人災」を増やしている場合ではない、とつくづく思う。
by mariastella
| 2021-03-30 00:05
| フランス
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