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L'art de croire             竹下節子ブログ

マーシャル・プラン

マーシャル・プラン

歴史の舞台裏シリーズでマーシャル・プランについてのドキュメントを見る。

こういうのを見る度に、ヨーロッパに住んでヨーロッパ視線の歴史を紐解くことのありがたさが分かる。

もしアメリカに住んでいたら、私の場合は日本とアメリカの関係にばかり目が行っていた気がする。

で、マーシャル・プラン。大体は知っていた。たった数年で、ソ連が核兵器開発に成功した時点で「戦争」体制に再び突入したので終わってしまったけれど、マーシャル・プランがなければ今のヨーロッパもなかったろうなと思わずにいられない。

日本語のネットで検索してみたらこういうのが出てきた。

そう、同じ「枢軸国」でも、日本とドイツはまったく違う運命をたどったとあらためて思う。



マーシャル・プランがトルーマンによって発案された時は、戦争によって疲弊したヨーロッパのすべての国に無条件で復興支援金を配布するということだった。発表するトルーマンの傍には国務長官マーシャルだけでなく原爆の父の一人でもあるオッペンハイマーがいた。

この知らせに一番喜んだのは英仏だ。

といっても、アメリカは別にサンタクロースを演じたわけではない。アメリカの経済を救うためにはマーケットとしてのヨーロッパの再建が必須だったからだ。

ところが話はどんどん変わっていった。

「連合国」であるソ連のモロトフがやってきて、アメリカの援助を受ける国は主権国とは認めない、国交を断絶する、と恫喝した。チェコはソ連に呼びつけられてアメリカからの金を辞退することになった。

アメリカも、「すべての国に無条件で」と言っていたはずなのに、フランコ政権のスペインは排除することにした。英仏には、膨大な数のドイツ軍捕虜の解放を条件とした。ドイツ軍捕虜は、多くの働き手を戦争で失った英仏にとって安価な労働力として貴重だったのだ。イギリスはナチスのせいで自分たちは国の富の25%を失ったのだと強調した。復員したドイツ兵はアメリカに感謝することになる。

結局「すべての国」は最終的に16ヶ国のみになった。マーシャル・プランが最終的にアメリカで批准されたのは19482月で、今でいうと5200億ドルが第一回目に支払われた。20%は利子付きの融資で、80%が贈与だったけれど、その金で購入する資材や工業製品などは全てアメリカからの輸入に限るという条件が付いていた。アメリカ経済にはヨーロッパというマーケットが必要だったからこそのマーシャル・プランで、贈与したドルの半分はアメリカに還元される仕組みになっていた。

それでも、ぼろぼろになっていたヨーロッパに、アメリカからの物資が続々と届くのは壮観だった。ギリシャには農耕用の馬までが運ばれた。アメリカの電化製品が、コーンビーフが、町にあふれた。


ソ連だけでなく、ヨーロッパの「共産党」との軋轢は続いていた。「共産主義者」は、「ヤンキーによるヨーロッパの支配、植民地化」に抵抗せよ、と煽動していた。

イタリアの選挙の時は、アメリカが支持する候補に投票するようとの露骨なキャンペーンがあった。共産党候補に投票すれば、アメリカからの援助金は得られなくなるばかりか、アメリカにいるイタリア系移民が祖国に金を送ることも禁じられる。イタリア移民たちがそのことを知らせるために祖国の家族にあてて送る手紙のフォーマットも配られた。それは功を奏して、共産主義の候補は敗れた。

フランス政府は、「将来的にアメリカを必要としなくなるためには今アメリカが必要なのだ」と言った。

ドイツに占領されながらも「自由フランス」をたてて「連合国」として大戦の勝利国にまわったフランスには、それでも、切り札があった。マダガスカルのミカをはじめ、植民地国の石油やクロムなどがあったからだ。イギリスもそれは同じだった。だからこの両国は、ひとまず「ヤンキーの植民地」になる心配はなかったし、ソ連を必要とせずにすんだ。

1949年にすべてが変わった。ソ連が核兵器を開発したからだ。ソ連包囲網としてのNATOが成立してすぐのことだった。

翌年、復興のためのマーシャル・プランはまたたくまに防衛プランに切り替わった。復興予算は防衛予算となった。

ソ連とアメリカ(英仏も統合)によって分割占領されていたドイツの状況もすでに変わっていた。ベルリンでの緊張が高まり、1948年にアメリカは大量のドイツ・マルクを印刷してベルリンでライヒスマルクと交換した。それによって、ナチスの支払うべき賠償金も消滅した。ベルリンは「ナチス」という加害者ではなく「共産主義」の被害者ということになった。

最大の「悪」はもはや「ナチス」でなく「共産主義」だった。そして共産主義はピューリタン国アメリカにとって「無神論」の「悪」でもある。ヨーロッパに共産主義が蔓延しないように、アメリカはプロテスタントの宣教師を大量に送り込んだ。エホバの証人、モルモン教、セブンスデー・アドベンチスト教会などだ。

アメリカの刷ったこのドイツ・マルクが通用する範囲が「西ドイツ」となった。

ソ連の「核兵器」が「冷戦」の幕を落とし、1955年に完全独立した西ドイツにドイツ軍が再建された。

同じころ、やはり分断統治されていた朝鮮半島で、「共産軍」と実質米軍が衝突した朝鮮戦争が起こっていた。

実質2年ほどのマーシャル・プランだったけれど、この後リタイアしたマーシャル元帥は1953年にノーベル平和賞を受けている。


マーシャル・プランが打ち切られた翌年、1951年に、西ドイツとフランスは石炭鉄鋼同盟を結び、今のヨーロッパ連合の元を築いた。宿敵だったこの二国がアメリカなしで平和を守るために打ち出した画期的な歴史の第一歩だった。(今のEUでの統一ドイツの立ち位置やBREXITのことを思うと感慨深いが)

1951年に沖縄を人質にする形で「独立」が認められた日本は、戦力の非保持による節約と朝鮮戦争の軍需景気をばねにして華々しい「復興」の途についた。

大戦の舞台とならなかったアメリカが自国の経済のためにだけマーシャル・プランをスタートさせただけではない。アメリカ人のほとんどはヨーロッパからの移民であるから、多くのアメリカ市民が、自分の出自である国に寄付をしたり援助したりした。プロテスタントの慈善事業文化というメンタリティもある。


今私の住んでいる郊外の町は、パリとドイツを結ぶ鉄道の要所であり、米軍の爆撃を受けた。私の住む築140年の家は焼け残った家だけれど、屋根裏にUS army のロゴの入った大きく重い金属製の机がある。ドアから出せる大きさではない。どうやって入れたのか謎だ。焼け残ったこの家が接収されて米軍の事務所になって中で組み立てられたのだろうか。ともかく動かしようがないので私はその机をずっと愛用している。

町にはアメリカ通りとよばれる通りがあり、全てアメリカ風に前庭のある各家にアメリカの家とかカナダの家などの通称があって、各国の特徴を表している。その通りは完全に焼け跡だったのをアメリカが修復して家を建てたのだ。それがマーシャル・プランの一環だったのか、単にアメリカ軍による爆撃の修復だったのか調べていないから分からない。


工業地帯の復興となるとまた桁が違うだろう。

知り合いに、戦後の焼け跡のブレストの土地を買いまくった人がいた。そしてブレストの復興で財産を築いた(今はもう亡くなった)。日本でも、私の母の叔父のように、戦後の神戸の焼け跡の土地を買い占めて財を成した人の話を覚えている。


戦争でも、復興でも、犠牲となる人もいれば潤う人もいるのだ。

人はいろいろなものを作ってきた。便利さ、快適さも追及してきた。

それなのに、それらを一時に破壊するような愚行がどうして繰り返されるのだろう。

歴史のドキュメンタリーのほとんどは、戦争、略奪、虐殺抜きには語られない。

そのことの意味をもう一度考えさせられる。


by mariastella | 2021-04-14 00:05 | 歴史
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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