イラク戦争のドキュメンタリー先日Arteで2003年に決行された米軍主導の多国籍軍のイラク侵攻とそれに続くイラクの荒廃をたどるドキュメンタリーを視聴した。 興味深いのは、証言するのが、メソジストの牧師でもあり元アメリカンフットボールのスターでもあった将軍と、戦場ジャーナリスト、彼と行動を共にした若いカメラマン、彼らの通訳を務めた若いイラク人青年などで、いずれも、20年近く経った後にようやく重い口を開き、今の視点から語ることができていることだ。将軍など、善意で使命感に満ちていて、当時はイスラムの指導者たちを前にして先日のフランシスコ教皇と通じる言葉を発していた映像がある。今振り返ると、自分たちがイラクに侵攻した時に、後のISの種を撒いたのだと痛恨の思いを語っていた。 2003年のイラクは第一次湾岸戦争以来の経済封鎖で苦しんではいたけれど、バクダッドのような都市部は、コスモポリタンで自由で、アメリカ文化も浸透していた。番組で証言した人は当時18歳でヘビーメタルのグループを作っていたという。もちろんほとんど皆がバアス党員という建前で、学校にはミッキーマウスの絵とサダム・フセインの肖像画が並んでかかっていたのだそうだ。彼はロックを通して英語を学んでいたので、バクダッドが米軍に占領された後でジャーナリストの通訳兼ガイドに雇われた。一日50$の給料だった。軍人である彼の父の給料の半年分だ。その父も、軍が解除され、バアス党員はいかなる職に就くことも許されなかったので無職となる。 多国籍軍から侵攻されるまでは、人々の暮らしで警戒すべきはフセインだけで、フセインさえ冒涜しなければ神を冒涜しても罰せられない自由で安全な生活だった。焼け跡で毎日自爆テロが続くような日が来るとは想像もしていなかったのだ。 アメリカが言いがかりをつけた大量破壊兵器どころか、イラク軍のレベルはほとんど原始的だった。空爆を避けるために原油がまかれて燃やされた。バクダッドの町が黒煙に覆われた。彼らは米軍が「目視」でスイッチを押して爆撃するのだと思って「けむに巻いた」つもりだったのだ。 砂漠では「動くもの」は全て爆撃された。動物も、遊牧民も殺された。一ヶ月で瓦礫の町が広がり、その「復興」には10年以上かかった。米軍は強いからすぐ復興してくれるものだと期待した人もいた。しかし、水も、電気も警察も消防もない町では、壊れた建物に群がる人々による略奪が続いた。銀行や店、学校も、役所も、病院も略奪された。米軍は「警察ではない」として、それを阻止することはなかった。彼らが守ったのは「石油省」の建物だけだった。 人々が求めたのは「電気と安全と尊厳」の三つだったが、全て無視された。
このイラク侵攻とそれに続く蛮行の一部は後に曝露されて問題にもなったし、私も当時、現在進行形で論評もしていた。アメリカを批判する記事を出したかったが、その頃は日本政府がイラク侵攻を肯定したということで、断られたこともある。結局、その時期が過ぎて、アメリカが批判されたりイギリスが過ちを認めたりした後でやっと文春新書の『アメリカにNOと言える国』を出してもらえることになった。 しかしその時はまだ、イラクのアルカイダからISへと、イスラム過激派が石油産地をおさえてイラクやシリアにまたがる「イスラム国」を立ち上げることになるなどとは思いもよらなかった。イラクはサウジアラビアなど中東の多くのテロリストたちの巣窟となり、イスラム国のジハード・プロパガンダが世界中からテロリスト予備軍をシリアに終結させることになったのは記憶に新しい。 イスラム国の爪痕と混乱は現在も続いている。そんな不安定で危険なところに、主権国の元首であり、軍人ではなく、一神教の連帯も呼びかけるローマ教皇が3月初めに乗り込んだわけだ。 今の情勢が今から10年後にどのように分析されるのかはまだ分からない。 でも、2003年から2006年にかけて、フセインの処刑をもってイラク戦争に勝利したとブッシュ大統領が言った裏の実態について貴重な証言を集めたドキュメンタリーを今回視聴したことで、いろいろな気づきを得ることができた。さらにいろいろな視点から現状を分析していきたい。
by mariastella
| 2021-04-15 00:05
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