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L'art de croire             竹下節子ブログ

「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」で連想したこと

(これは前の記事の続きです)


知能優秀者(HP)の子供は、実際、見分けにくいことがある。

女の子でも多動を伴う時は難しい。また、集中力も足らないことがある。

前に述べたドキュメンタリーでも、平均的知能指数の子供たちのグループに折り紙のモデルを見せて制作をさせた時と、HPの子供たちに同じことをさせる実験があった。ただし、テーブルの上には、子供の注意を惹くいろいろなものが置いてあり、折り紙との関係が分からない。

普通の子供たちは、指示に従って、折り紙を制作し終えた。

ところがHPの子供たちは、そこにあるいろいろなものに気をとられ、折り紙のことを忘れてしまう。

私の生徒にもそういう例があり、なかなか見抜けなかったことがある。女の子だ。

小学校低学年だったろうか、ピアノの前にじっと座っていないで、隠れたりする。じっとしていないで、ともかく集中しない。曲を繰り返させてもすぐ別のことを始める。

私は、この子は多動で注意障害がありしかも知能が遅れているのだと思って、それなりのプログラムを組んだけれど毎回疲れた。ある時、彼女が持っているノートを見て驚いた。SF風の長いストーリーが綴ってある。いくつか質問してみると、構想も構成もしっかりしていて、壮大なビジョンを持っているのが分かった。この子は「遅れている」どころか、HPだったのだ。


それから私の態度はまったく変わった。彼女に対等に話しかけ、毎回のレッスンの目標を説明し、理詰めで、「成果」が目に見えるようにした。母親(陶芸家)に話したら、学校でも2年の飛び級を進められたけれど、落ち着きがなく席に座っていないので、辞退したのだという。

私が学校教師だったらやり方を考えたかもしれない。また、母親が私にも最初からそれを伝えてくれていたらもっと早く道が開けただろうと残念だった。小学校を卒業した後ピアノをやめてしまったのでその後どうなったかは知らない。

その子はピアノ演奏に関して特別の才能があったわけではない。私は残念ながらそのような「天才」の生徒に出会ったことはない。私は「平均的」な演奏者だけれど、「非凡」を見抜く程度の能力はあるので残念だ。(幸い私のトリオの仲間たちの非凡さに満足している)


そういえば『グッド・ウィル・ハンティング /旅立ち』の中で、ウィルが恋人に自分の能力を説明する時に、自分はピアノを前にしても鍵盤やペダルしか見えない、でもベートーヴェンやモーツァルトならそこから音楽があふれてくるんだ、同じように自分は化学式や数式を見るとすぐに答えが出てくる、と言っていた。

確かにそうだ。 HPとか、知能指数とか言っても、たいていは「学習能力」みたいなものに限られている。音楽や演奏や踊りやスポーツの才能とは違う。ウィルがこういう風に相対化すること自体は彼の観察力や分析力のおかげだ。


いわゆる点数評価系のキャリアに役立つ知能指数などは、アートの感性や創造力や直感や共感力とは別物だ。知能指数だけが高くても、自閉症スペクトラムで適応できない人もいればウィルのように生まれた環境によってそれを発揮できない人もいる。難民キャンプでひしめく子供達を見るたびに、胸が締めつけられる。

持って生まれた個性を自分なりに生かすということは、周りの人の共感なしには至難の技なのだ。


私自身、いわゆる「学習能力」系のHPではあった。3 年上の兄の教科書をすべて読んでいたし、日本には飛び級がなかったから学校では予習も復習も必要なかったけれど、退屈しなかった。友だちはたくさんいたし、試験の答案用紙の裏にも、教科書にもノートにもいつも絵を描いていたからだ。ノート提出なんていう時は焦ったけれど、優等生だから別に叱られなかった。そのことに不公平を感じていた。

みんなが必死で勉強をしているのに私は全然集中できなかった。授業をさぼっても親にも先生にも叱られなかった。百点以上はなくて東大以上の所に行けないのも不全感があった。とはいえ、知能テストで150以上が出ても、怪しいものだと思っていた。なぜなら、空間認識力のテスト(積み上げられた積み木の数を書くなど)は苦手で制限時間中に終わらず、他のテストはあっという間に終わったので、余った時間で空間認識力のページに戻って続けていたからだ。今でも、「認知症を防ぐ頭の体操」などで空間認識のテストは苦手なままだ。数学のセンスもなかったし、何でも暗算してしまうので、論理的に破綻しても後に戻れないことがあった。何よりも、バレエやピアノなどのお稽古事で、明らかに「才能」がある人を見分ける能力はあったので、私がどんなにがんばっても、持って生まれた才能のある人の醸し出す自由さには届かないと知っていた。

記憶力や分析力でも、私を凌駕する人など、両隣にはいなくても、古今の書を紐解くだけで無限にいるのが分かるし、実際にすごいなあと感嘆する人に出会うこともあった(前述の島田先生の記憶力もすごかった)。

もちろん虐待も受けていないし、ジェンダー・イメージの押しつけもなかったので、便利な能力はそのまま使い、集中力のなさやその他さまざまな能力の欠如とも共存したり補ったりして生きてきた。


でも、今や、固有名詞や簡単な言葉が出てこないとか、短期記憶の欠如なども自覚するので、HPの人が老いるのにはどういうタイプがあるのか、それにはどういう要素が関連するのか、などの好奇心が満々だ。好奇心と想像力だけは昔から変わっていないなあと思う。

今は、ネットで、「無名」の多くの人のブログなどに接することができるので、明らかにHPだと思える多くの人がどうやって暮らしているのかを垣間見ることができるのも楽しい。


で、『グッド・ウィル・ハンティング』のマット・デイモンって、実際にHPなんだろうなと思う。

彼がハイ・ポテンシャルをこういう風に使っていい作品を残してくれていることに感謝だ。


by mariastella | 2021-05-08 00:05 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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