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L'art de croire             竹下節子ブログ

ultima ratio regum 王の最後の一手

戦闘において使われる「武器」はいくら「防衛装備」とか「抑止力」とか言っても、「殺人兵器」であることには変わらない。

パリのアンヴァリッドに今もあるルイ14世軍の大砲にはこういう言葉が刻まれている。

ultima ratio regum 


ultima ratio regum  王の最後の一手_c0175451_15124252.jpeg

これは、「王の最後の論拠」というラテン語で、ratioは理性と同じ言葉。

もともと、すべての平和的外交的な議論が出尽くして、合理的解決がつかなかった時に、持論を通すための最後の手段として武力に頼るのを認めざるを得ない、という意味だ。

フランスではリシュリューのお気に入りの言葉でそれをルイ14世が継承した。

それをわざわざ大砲に刻むというのがフランス的だ。
フランス共和国の標語というのは「自由、平等、同胞愛(博愛、友愛)」だけれど、フランスの軍隊の四つの原則は「名誉、忠誠、規律、勇気」だ。
もしも命令が、自分の良心に反するものだとしても、まず命令に従い、その後で軍を離れよ、とされる。

4月21日、フランスの退役将軍らが連名で、保守雑誌に政府の社会政策に対する問題提起を公開して話題になった。

彼らはフランスの軍事政策を直接批判したわけではない。それはモットーに反する。
フランスが兵役を廃止したのは20世紀末だけれど、そもそも将軍の地位に昇り詰める人はもともといわゆる「職業軍人」だ。
フランスではフランス革命が全共和国市民を兵役に徴集したことで騎士階級や傭兵でない国民軍ができたことになっているけれど、たとえばナポレオンの戦功に活躍したのはやはりプロの戦士たちだった。モスクワ進攻の帰りに「冬将軍」にやられてナポレオン軍は壊滅的な打撃を受け、その後は兵役組が中心になってナポレオン軍は弱体化した。
「兵役」組というのは、もともと、兵役が終われば市民生活に戻るのだから、「社会的意識」を保持するのは当然だ。
それに対して、プロの軍人は、「社会問題に口を出さない」、一線を画するというのが必要とされる。西洋で「プロの軍隊」をはじめて作ったのは、紀元前一世紀初めのローマのガイウス・マリウスで、自分は平民出身だが、軍人として活躍し、「市民兵制」から「職業軍人」の切り替えという軍制改革を行った。それによって訓練や指揮系統の改革も可能になり、プロの戦闘集団が出来上がった。この改革がなければ、その数十年後にカエサルが6000人の部隊を引き連れてルビコン川を渡ることはなかっただろう。

それ以来、たとえ「兵役」のある国でも、指揮系統の上にいるのは「職業軍人」であるから、そのメンタリティは当然「平時の社会一般の市民生活」とは一線を画することになる。
革命前のフランスでは、貴族の長男は称号と領地を継承、次男は軍人に、三男は領地のある司教や枢機卿になるというパターンがあった。
ところが、革命後はもちろん、第二次世界大戦以降は特に、「社会的エリート」の層が変化した。
20世紀前半にはドイツに対抗するため軍隊の価値が高められた。ドイツ軍優勢の1916年あたりでは、フランス軍には「名誉」しか残っていなかったとも言われる。
その後、軍人ではない議員、行政官、大学人、起業家などが「エリート」として認知される社会になって久しい。
そんな社会で、アフリカなどで戦死者を出し続けているフランス世界の戦いの現場を見てきて見てきて意識の高い将校らが社会問題に「口出し」したことへの反響は少なくなかった。

フランスの軍隊の標語、モットーや、メンタリティについていろいろ気づいたのは、今から10年前、海軍省のホールで東日本大震災チャリティコンサートをオーガナイズした時だった。何度も海軍サロンに出入りして、退役将校らとも話し合った。海軍大将にもお世話になった。

今、ウィキペディアで、軍隊のモットーのリストを見たら、各セクションに独自のものがあっておもしろい。今は、エレクトロニクス戦争の部署もあり、それでもモットーがラテン語というのもアナクロニックでおもしろい。


785e Compagnie de Guerre Électronique : Oderint, dum metuant (Qu'ils me haïssent, pourvu qu'ils me craignent)憎まれてもいいから恐れさすのが大事。
これはフランス語
    • 1re compagnie du 54e régiment de transmissions : Au plus loin より遠くに
    • 2e compagnie du 54e régiment de transmissions : Parfois aigle, toujours lion ある時は鷲になり、いつもライオンであれ
ついでに自衛隊の標語というのを検索したら、「『スマートで、目先が利いて、几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り』とは、旧海軍からの伝統精神を表現する標語の一つ」というのが出てきたけれど、いわゆる戦時中などは、きっと、一般国民を縛るタイプの標語の方が多かったんだろうなあ。
ついでに自衛隊の標語というのを検索したら、「スマートで、目先が利いて、几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」とは、旧海軍からの伝統精神を表現する標語の一つ






by mariastella | 2021-05-17 00:05 | フランス
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