トマス・アクィナスと言えば、スコラ神学の巨人で、神学大全によって、アリストテレスの光とともに知性と統合した聖人だけれど、彼の遺骨がフランスにあるとは知らなかった。シシリアで死んだのに、100年後に、当時のドミニコ会教会で最も美しいといわれていたトゥールーズのジャコバン教会に納められた。今も、毎年一度頭蓋骨の聖遺物行列があるそうだ。フランス革命で一度失われたものが1974年に戻ってきて、その特殊な保存の仕方から「本物」だと認定されたそうで世界中から巡礼者が来るという。
日本とフランスはアメリカに対してのスタンスがなんとなく似ている。
多くのものが翻訳されているし、アメリカの「ブーム」は、BLMや各種ポリコレなど、あまり自国と文脈がずれているものでもどんどん「輸入」する。
でも、両者とも、アメリカのキリスト教に関しては、どちらかというと「冷淡」だ。
アメリカでは多くの大学に神学部があって、普通の学生も神学部に進むし、トマス・アクィナスの本など、学生にも大いに読まれているのだそうだ。
日本やフランスのイメージでは、13世紀のスコラ神学など遠い中世のイメージだけど、ソルボンヌのトマス・アクィナスの周りというのは、「知性」と「芸術」と「霊性」の3つが共に最高峰に達していた。知の怪物は他の感性も極まっていた。
それを思うと、その後のルネサンスにはむしろ退化した部分があったし、宗教改革のルターは神学大全などトマスの著書を焚書した。
カトリック教会には、その歴史の中で様々な雑音や匂いがついているので、トマスに対する偏見、先入観などを仕分けるのはなかなか難しい。
それを軽々と、やすやすと、陽気に楽しく軽々と、しかも深くやってのけたのがチェスタートンだ。トマス神学の第一人者エティエンヌ・ジルソンに絶賛されている。
チェスタートンと言えば当然「ブラウン神父」だし、193cm130kgの巨体で帽子に葉巻というイメージと共に、子供のころからなじみが深い作家なのに、トマス神学の核心を教えてもらえるとは想像もしていなかった。
チェスタートンのニューカトリックにはドグマや十字軍の歴史などとは別に核となるオプティミズムがある。プラトン主義、仏教、カルヴァン派、イスラム教の核にはペシミズムがあって、人間が至高のものや境地を求めるけれど、カトリシズムは躊躇なく「命、人生」を肯定するという。トマスの神秘体験も有名だし、天使論も有名だ。
天使の歌に包まれて人は生を全うする。
チェスタートンも、トマス・アクィナスと同じように破格の天才だとあらためて思う。