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L'art de croire             竹下節子ブログ

Coexister 共に生きる

宗教ネタコメディなので観ることにした。2017年、イスラム教のイマムとユダヤのラビとカトリックの司祭のトリオで歌わせる企画を思いついた音楽プロデューサーの話で、ドタバタの末、ハッピーエンドに終わる。



フランスではその前に、カトリックの司祭や修道士が歌う曲が爆発的にヒットした。

(こういうの)

この映画でもそれをふまえて、今度はカトリックとユダヤとイスラムで、と、プロデューサーが思いついたわけだ。


監督のファブリス・エブエはスタンダップ・コメディアンで、黒人の父を持つことからアフリカのエリートをネタにしたコメディも作っている。

彼の父はカメルーン出身のエリートで、フランスで医学を修めた医師であり、母親は歴史のアグレガシオンを持ったフランス人の教師だ。エブエは、黒人でカトリックでありながら、別れた妻はモロッコ出身のムスリムという、自分自身が「多様性」のシンボルのような人だ。そのエブエ自身がシナリオ、監督の他に、映画の中の音楽プロデューサーを演じている。

TVで試聴した時、10歳以上禁止のマークが出ていたのでなぜだろうと思ったら、まあ、宗教者のカリカチュアとセックスを結びつけているシーンが露骨で悪趣味だからだろう。その意味で、やはり宗教と多様性などのカリカチュアでヒットした「神様に何をした ?」に通じるテーマなのに、やや間口を狭くしてしまっている。


ただ、ポリコレを真っ向から笑い飛ばすこういう映画って、やはりフランス的だなあと思った。



franchouillard(フランシュイヤール)という言葉がある。フランス人の悪い癖、みたいな自虐的表現だけど、こんな映画を観ると、笑って絶賛する人と侮蔑する人に分かれるようだ。

「共に生きる」に戻る。

映画の中で、歌える聖職者をスカウトするのに、やはりフランスではカトリック教会が手っ取り早い。いろいろな教会を回って、田舎の教会でポジティヴ・オーラを放つブノワ神父を見つける。

音楽が基本的に軽んじられるイスラムのイマムはリスクが大きいので、酒飲みで女好きのアラブ人歌手を調達した。ユダヤのラビは、昔グループで歌っていたのだが、新生児の割礼に失敗してトラウマで鬱になっていたところを探し当てた。それぞれ、はじめは断っていたが、経済的必要に迫られてOKする。

イマムの役をする歌手には酒やコールガールを毎日あてがわなくてはならないし、トラウマの発作が起きるイマムには、彼の愛用する「死海の塩」を基にした吸引剤にそっと大麻を混ぜてハイにするなど、めちゃくちゃなのだけれど、唯一カトリックの司祭だけが、教会の修理費用を捻出するためにこのプランを成功させようとみなをなだめる。彼は『人生は長く静かな河』のブルジョワたちを鼓舞する神父を演じたパトリック・ブシテー(「イエスは戻ってくる」の歌がヒットした)とそっくりで、一瞬、カリカチュラルで偽善的な神父に見えるけれども、本当にまじめなのだ。それでも、田舎司祭の生活から突然ショービジネスの世界に放り込まれて、プロデューサーの女性アシスタントの悩みを聞いたりしているうちに本気で彼女を好きになる。「偽善的な神父が欲望に負けた」というより、その後で還俗して彼女と結婚するなど、イマムや偽ラビ同様、スタンダップ・コメディの悪趣味ぎりぎりのところでヒューマンドラマの可能性も残しているといったところだ。

お手軽な「多様性」「共に生きる」をビジネスにするというのがテーマだけれど、やはり、監督であり音楽プロデューサーの役を演じるエブエ自身が、黒人ハーフでありソフトな独特の味を出しているのがおもしろい。


ビデオクリップの試行錯誤とか、音楽シーンは楽しく視聴できたので後悔はしなかったけれど、やはり「フランス」以外の場所でお笑いを取るのは難しいだろうなというところだ。


by mariastella | 2021-09-08 00:05 | 映画
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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