コクトーとピカソの文通 Correspondances : Jean Cocteau - Pablo Picasso
先日F5でコクトーとピカソの文通についてのドキュメンタリーを視聴した。
第一次世界大戦とその後のパリのアーティストたちが、シュールレアリスムの動きの中で、戦争、共産主義、信仰などの問題とどう関わってきたかについては様々なところで書いてきた。(コクトーとピカソと共に創作したロシアン・バレエの『パラード』を作曲したエリック・サティについては『神と金と革命がつくった世界史』(中央公論新社)に書いている。) このブログ内でも、カテゴリーの「マックス・ジャコブ」についてシリーズで書いているのでクリックして読んでほしい。 そこにもコクトーとピカソが出てくる。 1944 年、マックス・ジャコブがゲシュタポに逮捕されたとき、コクトーは、彼がもう20年以上のカトリック信徒だと言って抗議した。(でもユダヤ人のジャコブは収容されたまま死ぬ。) 同性愛者やバイセクシュアルや教会離れや社会主義への接近などが「普通」だった当時のアーティスト・グループだが、こういう場面ではスペイン人のピカソも含めてカトリック・アイデンティティを自然に共有したのは興味深い。 それにしてもコクトー。マックス・ジャコブのシリーズでも書いたけれどラディゲにも振られ、ピカソにも振られ、後に映画に起用するジャン・マレーと暮らせるとはいえ、かなり悲惨だ。実際、第一次世界大戦後にピカソがブルトンらと近づいてコクトーと距離を取った時期、絶望したコクトーは自殺を考えたらしく、「母と教会がなければ窓から身を投げるところだ」などと手紙に書いている。 コクトーとピカソの文通と言っても、1915 年、最初にピカソに面会を求めて何通も手紙を出したのはブルジョワ出身の詩人26歳のコクトーで、その後も、愛の言葉満載の手紙が、コクトーからは280通も残っていて、ピカソからの返信は50通、時間がないからと写真だけ送ったり、妻に代筆させたりもしている。「既読スルー」というのも多い。それでも、半世紀近くにわたって彼らが残した手紙は、彼らの創作の秘密、舞台裏、芸術活動の変化、進化などについての貴重な美術史、文学史の資料でもある。 マックス・ジャコブもピカソに夢中だった。でもピカソには同性愛の片鱗もなさそうだ。そのこと自体がゲイやバイのアーティストをさらに惹きつけたのかもしれない。 ピカソは34歳で独身、キュービズムの時代だった。その頃のピカソの写真や映像を見ると、背は高くないのに、とにかく「目ヂカラ」がすごい。長身でひ弱そうで繊細なコクトーとは正反対だ。 何とかピカソと仕事をしたいコクトーは、ロシアンバレーの興行をしていたセルゲイ・ディアギレフ(この人もゲイでニジンスキーを愛人にしていたこともある)のために「パラード」のシナリオを書き、サティに作曲、ピカソに衣装や舞台装置を依頼して承諾をもらった。 その過程で二人の友情は深まるが、ピカソはそのロシアンバレーのダンサーのオルガと恋仲となり、1918 年にはパリのロシア正教会で結婚式を挙げて、マックス・ジャコブ、コクトー、アポリネールらが「証人」として出席している。 「パラード」は1917 年にパリのシャトレー劇場で上演されたが、第一次世界大戦中なのに不謹慎だと叩かれる。 コクトーも救急隊員として一時召集されたが戻ってきていた。ピカソはスペイン人なので徴兵はなく、ポーランド系のアポリネールはフランス国籍を取得してまで前線に赴き、塹壕で頭に負傷し戻ってきていた。包帯姿の勇士であるアポリネールがこのバレエを擁護したので、騒ぎは静まった。 アポリネールは翌年のピカソの結婚式のすぐ後でスペイン風邪で死ぬが、頭に包帯を巻いたままであり、「戦死」の認定を受けた。 戦後、コクトーとピカソの疎遠が続いた。1937 年、ピカソは「ゲルニカ」を製作し、1938 年、コクトーは『恐るべき親たち』の戯曲がヒットする。 コクトーの手紙に返事も書かなくなったピカソとの距離が近づいたのは、1942年からのパリのドイツ占領がきっかけだった。「自由」が脅かされる時、アーティストは団結する。 第二次世界戦後には、コクトーは、ピカソ夫妻(最初の妻とはもうとっくに別れている)の南仏の家に滞在して家族同様に歓迎された。コクトーもジャン・マレーと共に地方に住んでいた。 コクトーの健康を蝕んだのは麻薬からの離脱という戦いだった。 二度の世界大戦をくぐり抜けたアーティストたちが「自由」を死守するためにすがったのは、美だったり、神だったり、奔放な愛だったりしたけれど、酒やたばこを含むドラッグもその一部をなしていたのだろう。 コクトーの詩やデッサンや映画、アポリネールの詩、ピカソの絵、どれもみななじみがある。けれども、こうしてドキュメンタリー映画で彼らが動いたり語ったりするのを視聴すると感慨深い。 コクトーもピカソも天才だったが、ピカソの生命力あふれるカリスマ性と魅力は画面を通しても伝わってくる。男も女も彼の強烈なオーラに捕らえられたのだろう。 コクトーは1963 年に74 歳で没し、ピカソは91歳で1973 年に没した。 どちらも、私がフランスに住むようになる前に亡くなったので、私は彼らと同時代のパリの空気を知らない。 パリでの私の最初の住処はモンパルナスだった。 コクトーやピカソ(スペイン)やアポリネール(ポーランド)やシャガール(ロシア)らが集い合った気配は、もう、なかった。 (参考: マックス・ジャコブの第一話)
by mariastella
| 2021-09-26 00:05
| フランス
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