大統領選まで後7ヶ月となったので、フランスのメディアにはフェイクニュースも含めていろいろな情報がとびかっている。
コロナ禍やテロ対策も含めて陰謀論風のものも少なからずあり、そんな中で、いつものように耳にするのが「Secret dePolichinelle(スクレ・ド・ポリシネル)」という言葉だ。
以前はこれという疑問もなくスルーしていたのだけれど、今回、ふと、これは日本語では何というのだろう、と思った。「公然の秘密」というのが真っ先に浮かぶけれど、少しニュアンスが違う。
試しにネットで検索すると、英語でもオープン・シークレットと出てきたから、やはり「公然の秘密」となっているのだろうけれど、みんなが「共有」しているという感じではない。
ポリシネルというのはイタリアのコメディ・デ・ラ・アルテのキャラクターで前と後ろに瘤があるピエロのようなキャラで、ある領主について王に耳打ちし、領主の体は羽毛で覆われているというようなデマを絶対にオフレコ、と言って伝えた。そしてそれを他の人々にも別々に同じように伝えて回り、結局すべての人がそれを信じたけれど、「自分だけ」がそれを知っている、と思っていたとかいう話だ。
「裸の王様」のエピソードのヴァリエーションのようにも見える。みんな王様が裸に見えているのだけれど、誰も何も言わないから、他の人には服を着ているように見えているのかもしれない、自分だけがおかしいのかもしれない、と自信がなくなるのだ。(子供が王様は裸だ、と言うまでは)
つまり、「公然の秘密」のように、みんなが知っているけれど何らかの理由で口を閉ざすことにしたという合意が無意識にできている場合とは違って、自分が知っている「秘密」と同じ情報が他の人にも共有されているのかどうかは確かにわからない。共通した情報源があるのかどうかもわからない。で、「自分だけは真実を知っている」という優越感、それを共有できない閉塞感、確認できないことの不安、疑心暗鬼や自信喪失、などもろもろの感情が生まれて、社会は何となく分断され、お互いの信頼感が低減する。もともとそれを狙った誰かによって、巧妙に操作されている感じだ。
なかなか微妙な感情を引き起こす「秘密」である。
これにぴったりの日本語やポリシネルのようなキャラがあるのかどうか知らないが、そういう「秘密」自体はあるにちがいないと想像する。