フランス同時多発テロ(2015/11/13)の裁判と9・11
フランスでは、9/9から、2015/11/13に起こった同時多発テロ関係者の裁判が始まった。
サッカースタジアムの外、パリのカフェのテラス席などで犠牲者を出したテロリストたちがバタクラン劇場のコンサート会場に入り無差別に銃撃した後で自爆した。 同じ年のはじめの「シャルリーエブド」編集部、ユダヤ人食料品店と続いたテロも、衝撃的だったけれど、カフェでの飲食やコンサートを楽しむ人々への無差別テロは、「フランス人の生活様式」に対する制裁という形だったので、大きなトラウマを残した。 しかも、実行犯の一人は、自爆に失敗して逃亡し、ベルギーに逼塞した後、ベルギーでもテロに加わって逮捕された。 ベルギーでの裁判を終えてからフランスに送還されて、沈黙を守っていたが、今回、厳戒態勢の元、10数名の「共犯者」たちと共に法廷に引き出され、裁判は8ヶ月も続くという。 この裁判報道でフランス人がなんとなく誇らしそうに見えるのは、「うちは法治国家だから」という矜持をうかがわせるときだ。共犯者だけではなく実際に銃撃した実行犯に向かい合っても、判決が下りるまでは「容疑者」で、弁護される権利がある。 無差別テロという「野蛮」なものに対抗して、成熟した民主主義を見せつけることこそが重要で、最強の戦いだという意識だ。 それに加えて、「聖戦という名の殺人を正当化するイスラム過激派と違って、自ら無抵抗で殺されたイエス・キリストを掲げるキリスト教ルーツのヨーロッパは、死刑も廃止したくらいに立派です」と言いたいのも想像できる。 もう一つは、イスラム過激派テロリストの蒙昧を蔑視するだけでなく、「プロテスタント・ルーツで差別構造も解消できないくせに世界のリーダー面をしていたアメリカへの当てつけ」もなんとなく感じる。 今回、9・11の20周年で、いろいろな映像が流れたけれど、抵抗しないビン・ラディンを即座に殺害した現場や、軍人の証言などが繰り返されると、あらためて、すごいなあ、「逮捕」して裁くという発想はゼロなんだなあ、とショックだった。 イラクのサダム・フセインやリビアのカダフィーの死などは「内戦」という背景と切り離せないけれど、ビン・ラディンの殺害はまさに9・11の報復、「正義の鉄槌」のデモンストレーションだった。 しかも、いわゆる「実行犯」は飛行機をハイジャックして「自爆」したのだから直接報復するのは無理としても、同時多発テロを計画した主犯の正式な裁判は共犯者たちも含めていまだに始まっていない。裁判で罪が確定されれば、5人の被告はもちろん「死刑」だろう。それなのになぜ停滞しているのかと言えば、理由は彼らがすでにグアンタナモでひどい拷問を受けていたことが判明しているからだ。グアンタナモの収容所での米軍による拷問などの蛮行はイラク戦争の後で広く知られるようになった。 だから、5人の被告の扱いは難しい。彼らの裁判などで今さら注目を集めるのは藪蛇だから、「勝利」のパフォーマンスをビン・ラディン殺害という華々しい復讐劇で締めくくることにしたはずだった。 それにしても、ビン・ラディンをかくまった、潜伏している、と言ってアフガニスタン空爆を始め、蒙昧イスラム諸国に民主主義のドミノを、とイラク派兵を決め、結果的に、同時多発テロの犠牲者の数どころではない大量の市民らの命や将来を奪ってきたアメリカって何だったんだろう。 (自国の兵士たちにももちろん少なからぬ犠牲が出た) アフガニスタンにはサルコジがフランスをNATOに復帰させた後で派していとはいえしていとはいえ、イラク派兵には声を大にして反対したフランスだから、今回の裁判の公正さを喧伝してアメリカにあてつけようとしている気もする。 もちろん、アフリカや中東のイスラム系諸国とフランスには植民地や保護領の歴史もあるし、移民も多いし、それはヨーロッパの他の国も同じだから彼ら同士で牽制し合っている部分もある。建前と本音の乖離もあるし欺瞞もある。差別や拷問だって実際はあるだろう。 それでも、2015/11/13の多発テロの検証と裁判に向ける「建前」のまっとうさと、犠牲者やその家族による全体として抑制的な取り組みは、2001/9/11多発テロとアメリカとは対照的だ。「建前」をきっちりと表に出すのは次の世代に向けるメッセージとしても決して無駄ではないだろう。 (2015/11/13あたりの記事を読み返すとこういうのがあった。そう、この後で、ジル・アパップとの野外弦楽演奏に参加を決めたのだった。)
by mariastella
| 2021-09-13 00:05
| フランス
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