これを書いているのは9月の末だけれど、いつも通り、朝に日本の最新ニュースをネットで検索すると、皇族女性の「婚約者」がNYから帰国とかのニュースがかなり言い立てられていた。
この人については、基本的に関心がないし、この2年フランスから出ていないのでさらに気にしていなかった。でもネットで週刊誌が読めるし、記事を読まなくても見出しを見るだけでも、かなりスキャンダラスに扱われているのは知っている。伝統的な英王室からアメリカに移住した「ハリーとメーガン」のスキャンダルとかぶせて語られていることも多い。
でも私がこの日本のスキャンダラスな記事へのコメントなどで驚くのは、「血税を使うな」という言葉だ。皇籍を離れる時の一時金はもちろん、皇族費だの警護費だの、婚約者の実家の警備費に至るまで、否定的なコメントの多くは、「このコロナ禍で大変な時に国民の血税をそんなところに使わないでほしい」という言い方をしている。
税金を納める側なのだから、納得のいく使い道であるべきだ、ということらしい。
それ自体は正論だ。社会保障の充実のためと言って消費税を上げてその分を企業に減税するというやり方が納得できないというのは一理ある。
でも、「血税、血税」と繰り返され、中には「国民の血と汗の結晶である税金」などと書いている人までいる。
私は日本でもフランスでも税金を払っているけれど、「血税」という形容は思い浮かばない。本当の血税というのは「農民一揆」だとか「フランス革命」とかを勃発させるようなものだと認識していた。(高収入ではないから納税もささやかだけど、それでも、慈善団体に寄付したり道端やメトロの物乞いに小銭を渡したりしないことへの罪悪感の解消には多少なっている。実際は兵器開発などに使われているかもしれないけれど…。)
そもそもフランスでいわゆる所得税を払っている人(所得申告を共にする単位)は半数に満たない。
過半数は所得税がゼロなのだ。地方税である住居税も過半数の人は免除されている。
誰でも払うのが固定資産税と付加価値税(消費税)だけど、固定資産がない人はもちろん払わないし、高い消費税も通常食品をはじめとした必需品には低く抑えられている。教育社会主義国だから公教育の学費はゼロに近いし、保育費、給食費なども収入によって限りなく安くなる。
だから、ネットで「血税」という穏やかでない字面を見るたびに、日本にいる人、そんなに大変なのかと気になる。それともいわゆる「ヤフコメ」やSNSだけでお気に入りの言葉なんだろうか。
かと思うと「ふるさと納税」で送ってもらった野菜や果物の写真をアップして楽しそうな人もたくさんいる。その度に、いいなあ、フランスにもこんなのがあればなあ、と思ってしまう。
「…のために血税を使うな!」と声を上げる人と、税金の一部とはいえ地方の名産品になって帰ってくる人たちは、重なっているのかいないのか、なんとなく気になっていたが、ここに書いたのですっきりした。