『リバティ・バランスを射った男』ジョン・フォード1962『リバティ・バランスを射った男』ジョン・フォード(1962)を、あるきっかけで試聴してしまった。 昔観たような、観なかったような…。 普段は暴力シーン込みの映画を避けるようにしているのに、西部開拓時代の荒くれ者が跋扈して、発砲はもちろん、鞭も振りまわすし、コップやガラスが派手に割れる音が繰り返し響き、血が流れる。 でも、独特の「懐かしさ」もある。少女時代に観た西部劇、ジョン・ウェインの存在感が今も残っているからだ。 これはジョン・フォードとジョン・ウェイン最後のコンビ作で、ジョン・ウェインは55歳。この人のイメージはなんだかいつも老けている。 彼が西部の牧場主トム・ドニファンで、東部からやってきた若い弁護士のエリートであるランス・ストッダート(ジェームズ・スチュワート)と関わることになる。時代は1885年くらいで、まだ「州」に昇格していない西部の砂漠では、保安官も手を出さないリバティ・バランス(リー・マービン)一味が無法を働いている。 トムはハリーという食堂の娘に恋していてサボテンの花を贈る。その美しさに見とれるハリーを見たランスは、この砂漠において彼女が本物のバラを見たことがないことを知る。
ランスはハリーに読み書きを教え、住民たちにアメリカ建国の精神を教えるようになる。アメリカは共和国であって、民衆が主人なのだと強調して選挙の大切さを説く。 このランスがやがて知事になり、上院議員になって四半世紀ぶりに町へ戻ってくるところから映画が始まる。妻となったハリーを伴って、鉄道がひかれた町に着き、トムの葬儀に出席するためだ。 もうバラの花をさんざんプレゼントされただろうハリーは、故郷のサボテンの花を再び目にする。トムの棺の上にも置かれる。 「サボテンの花」がアメリカの広大さと、東部と西部の異質さのシンボルのようになっているわけだ。
アメリカという国の成り立ち、その変革期、政治、メンタリティ、などが素材になっていて、いわゆる西部劇という感じではない。 昔はただ「西部劇とはこんなもの、アメリカ映画とはこんなもの」というヴァーチャルな感じで観ていたけれど、今になって目にすると、「アメリカって本当に特殊な歴史の国だなあ」と思わざるを得ない。「拳銃を所持して身を守る」ベースから離れられないのもなるほどだと思えてくる。日本やフランスからは根本的な部分で想像もできないDNAの国だ。 (日本の平安朝の話や戦国時代、フランスの騎士物語や宮廷物語なども、別世界のゲームのように消費するのでなく、歴史を一定の方向で再構成してそれを受け入れ消費することが成り立っているメンタリティそのものをもう一度考えてみる気になった。) とはいえ、この映画の面白さは、やはりジョン・ウェインとジェームス・スチュワートを対峙させたところだろう。 ほぼ同じ年だが、ウェインはスコットランドとアイルランド系で長老派の家庭、父の病気で貧困に陥り、サッカー奨学生として南カリフォルニア大学に入った。スチュワートもスコットランド系だけれど豊かな家庭出身でプリンストン大学にも行っている。ウェインは兵役を免れ、スチュアートは空軍のパイロットとしてベトナム戦争にまで参加した。 ジョン・ウェインの厚みのある巨体と憂愁の漂う表情がこの役にぴったりだし、長身だがスマートで若く見えるスチュアートの「普通のハンサム」ぶりも弁護士役にぴったりだ。それでも、弁護士のランスは最初に襲われて傷つくし、エプロン姿で食堂の下働きをするし、いろいろな姿を見せる。エプロンをつけたままでよろよろと進む「決闘」シーンも、格好良さとは対極だ。 ジョン・ウェインは最初から最初まで頼もしい。失恋で身を引く時は別として。 リバティ・バランスを演じるリー・マーヴィンも悪役としての対比が際立っていてバランスが取れている。黒人奴隷で頼もしいポンピーやアル中のジャーナリストもいい味を出している。 白黒映画だけれど、光と影のコントラストや構図がよくできているので贅沢な気分だ。 職人芸的な娯楽映画に暴力と法という普遍的なテーマまで織り込み、ユーモアや皮肉も効いているのだから、やはり「名作」というしかない。 「名作」の中の暴力と折り合いをつけた時間だった。
by mariastella
| 2021-11-01 00:05
| 映画
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