アメリカの「自殺」とイラン
(これは前の続きです)
バリー氏が、イスラム世界がアラビア語の聖性にこだわって印刷術を拒否したという判断の誤りを「自殺」と形容したのが前回の記事だが、彼は今のアメリカもその道をたどっているという。 シュペングラーやトインビーも「西洋の没落」を語っていたけれど、「アメリカの没落」も、どんな没落も、自己判断の誤りによって引き金を引く「自殺」となると警鐘を発しているのだ。 バリー氏は1948年にNYで生まれたアメリカ人だが、父親は米兵としてノルマンディ上陸作戦に参加した後で、フランスとフランス文化に魅せられて、フランスで暮らすことを決心したのでバリー氏もフランス育ちのバイリンガル、バイカルチャーになった。 だから、アングロ・サクソンやアメリカを揶揄したり軽侮したりするタイプのフランス人と同じ視線を持っているのがおもしろい。しかも、ペルシャ語を駆使してアフガニスタンとも深くかかわってきたのだから、発想が新鮮だ。 >>一昔前、米軍が活動していたのはどの地域ですか、韓国、ベトナムetc、みんな中国周辺の国でした。ところがニクソンが北京を訪問してから一気に熱量が下がった。緊張が緩和した。今米軍が活動しているのはどこでしたか、イラク、アフガニスタン、etc、みんなイラン周辺の国です。バイデンがテヘランに行けば、熱量が下がる、世界の緊張は一気に緩和します。 うーん、中国の情勢は変わったし、今の状況と簡単に比べることはできないけれど、確かに「イラン」を悪魔のように敵視して包囲したのはアメリカの戦略の誤りだ。 今はまるでスンニー派とシーア派のにらみ合いのように思われているけれど、それはアメリカの創った構図だ。もともと1979 年のホメイニ革命はシーア派革命ではなかった。イランにもスンニー派がいたし、ゾロアスター教徒もいるし、アフガニスタンにもシーア派が19%いて、パキスタンにも20%いる。ホメイニは、イスラムを統合する国を目指していた。問題は、聖地メッカを抱えるサウジアラビアが米と軍事同盟を結んでい米軍基地を有していることだ。ホメイニ革命で人々は「アメリカに死を!」というスローガンを叫ぶという誤りを犯した。 私がサウジアラビアを現地で観察できたのは20年前で、その年の9月にアメリカの同時多発テロが起こった。サウジアラビアでさんざん聞かされたのは、アメリカ寄りの王と宗教権威とのバランスで、どちらも「イラン」を共通の敵とすることでそのバランスが保たれていることだった。 それはアメリカの戦略で、イランの「シーア派」をイデオロギーにすることで囲い込み、まるでスンニー派とシーア派の対立であるかのように演出し、それに成功した。 そのためにサウジアラビアのワッハーブ派などの原理主義をも擁護し、結果としてテロリストを要請してしまった。しかし「イラン=悪=敵」の刷り込みには成功し、サウジアラビアやエジプトなどイスラム諸国も、イランと敵対するためにはイスラエルともためらわずに同盟するのだ。 今はまた地政学が変化している。パキスタンが中国によって守られるようになったからだ。 中国があのような人権無視の独裁国家でなかったら、シルクロード構想は歓迎すべきもので、ペルシャ湾岸と中国を結ぶ交易路が再開すれば、アフガニスタンは再生できる。 けれども今の中国が出す条件にはウイグルの人権問題に口を出さないというのがある。 (中国は表向きは「無神論無宗教」国家だが、広大な領土に10%ものムスリムがいると推測される。中国の中央アジアのムスリムとの関係は、特にソ連崩壊後にムスリム諸国が中国内のイスラム圏と国境を接するようになって変わった。自国内のウイグルは弾圧し、中央アジアのムスリムは保護するというダブルスタンダードは自明だ。「宗教の頑迷のせい」だということにされている多くの係争がいかに経済的な覇権主義に結びついているかが分かる) 果たしてバリー氏が言うように、バイデン大統領がテヘランを訪問することで、全世界を道連れにしかねない「自殺」を回避することはできるのだろうか。
by mariastella
| 2021-11-14 00:05
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