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L'art de croire             竹下節子ブログ

アフガニスタンの夕べ

(これは前の記事の続きです。)

10/27、パリの書店で「アフガニスタンの夕べ」としてマイケル・バリー氏の『アフガニスタンの叫び』をめぐる講演があったのに出席した。

アラビア半島からインドまでの地図を見せながら、千年くらい前からの歴史をたどってくれた。簡単に言うと、インドのコショウ(生では小粒のブドウの実に似ていてるのに乾燥すると軽くなり辛味は10年保存できる)を求めて、レバノンやエジプトなどイスラム諸国から海路で季節風を使って船が往復し、紅海を北上したところでベネチア商人が買うという時代が続いた。「インド洋」は平和な海域だった。
もう一つのルートがアフガニスタンを経由して迂回する中国へのルートだ。

事情が変わったのは15世紀の大航海時代、ポルトガルがやってきて、イスラムを駆逐した。コショウなどの運搬に必要な沿岸部をポルトガル領にした。
インドは(馬以外の)何も輸入する必要がなく、ヨーロッパ人がやってきては南アメリカ産の「金」によってコショウを調達するのを許可していた。北のムガール帝国は何もしなくても豊かになる。
イスラム諸国はインドとの交易を中断された。
ポルトガルが去り、次にやってきたのはイギリスだ。ポルトガルと同じ拠点を直ぐに押さえた。イギリスの衛星国となったインドからアフガニスタンのカブールを経由してキャラバンで中国にコショウを送るルートもできた。
アフガニスタンは、北からは山岳部を経由するロシアと中国、湾岸につながる南からはインド(今はパキスタン)とイランの間でいつも戦略的な場所として狙われてきた。
ポルトガル、イギリス、ロシア、アメリカ、「帝国」がやってきては、結局、去っていった。アフガニスタンは「帝国の墓場」だとバリー氏は言う。
アフガニスタンはチェス盤のような場所で、そこでポルトガルやイギリスという駒やロシア、中国という駒が、いかに利益を最大化できるかというゲームを繰り広げては選手交代した。
山間部の戦略的な場所は、いろいろな国と「同盟」を結びつつ、「タイガーランド」として放置されたという。タイガーランドとは、虎の放し飼いの場所で、そこから出ない限りは、中でどんな弱肉強食をしようが、周辺国は干渉しないという意味で、この実態は長い間知られていなかったという。
デュアランド・ラインと呼ばれる地帯をめぐる歴史は、国家としてのアフガニスタンの困難さを象徴している。
(ここではとても簡単に書けないので興味のある人はWikipediaをどうぞ。)


バリー氏の講演は終始、地図を示しながらのものだった。本当かどうか知らないけれど、大陸移動説を科学的な説として最初に唱えたウェゲナー? は、病か事故かで長い間床についていて、その間世界地図をずっと眺めていて、大陸移動説に確信を抱いたのだそうで、病気になったらぜひ地図を、みたいなジョークで話を開始した。
(私は学校科目の「地理」は嫌いだったけれど、なんとなく、これからの人生で寝たきりを余儀なくされる期間があれば世界地図を眺めよう、と思った。実際、アフガニスタンと周辺の地図を眺めると、日本が「島国」だったことの僥倖やら、沖縄の歴史のことなどを考えてしまった。)

購入した本。来れなかったイラン人の友のためにも購入してペルシャ語で献辞を書いてもらった。
アフガニスタンの夕べ_c0175451_05402853.jpeg
下は私に書いてくれた献辞。「異なったエキスパートの目ですべての隔たりを取り払ってくれるSekkoへ」とある。少し話し合っただけなのに。日本人の視点というのが特殊なので印象的だったのだろう。(バリー氏は日本のファンだとも言っていた。)
アフガニスタンの夕べ_c0175451_05411846.jpeg
(マスードの息子の悲痛な叫びも載せられている。)
今のタリバン政権は、「西洋世界」の人道団体に支援をもとめている。今のアフガニスタンの深刻な飢饉、貧困は、「西洋の責任」ではなくても「人道的な義務」があるだろうと言っているのだ。
しかしそれは、タリバン政権の表向きの「女性の権利」継続を許してはならないこととセットになるべきだとバリー氏は力説する。女性にも医学教育を続ける、看護師や産科医、助産婦が必要だからだ、というようなごまかしに妥協してはならない。人類の半数である女性の完全な平等実現は、政策などではなく、人類の義務なのだ、と熱っぽく語るバリー氏をじっと見守る夫人が印象的だった。



by mariastella | 2021-11-12 00:05 | 歴史
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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