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L'art de croire             竹下節子ブログ

『評論家たち』ジャン=リュック・イエネール

10/31に再びThéâtre du Nord Ouest にJean-Luc Jeenerの新作『評論家たち』を観に行った。
彼の脚本だが監督と主演はしていない。

『評論家たち』ジャン=リュック・イエネール_c0175451_03344022.jpeg
舞台はある劇場の楽屋という設定で、そこに監督兼主演の初老の男が出てくる。それをイエネール自身が演じると、あまりにも「近すぎて」、微妙な距離が出ないだろう。
対照的な2人の男優、対照的な2人の女優、そして広報担当の男、という5人の登場人物。
観客席に3人の演劇評論家が来ていて、あと一組のカップルがいるという設定だ。
その評論家は、フィガロとヌーヴェル・オブスとテレラマのジャーナリスト。
テレラマのジャーナリストは女性で、女優の一人と関係を持ったことがあるらしい。
ジャン=リュック・イエネール自身もフィガロや他の雑誌に演劇評論を書いている。保守派の雑誌だ。テレラマは左派だとされている。

ル・モンドやリベラシオンの演劇担当は来ないのか?
あいつらは仲間内のものか金をかけた大スペクタクルにしかいかないさ。

それでも、役者たちは、これが見せどころだとがんばる。
イエネールならではの、「忖度」ゼロの、強烈な風刺であり、仲間内の文字通り「楽屋裏」の話であり、その特殊なシチュエーションから攻撃性、残酷さ、無邪気さ、皮肉、挑発、ありとあらゆる普遍的な「人間性」が見えてくる。
まったく性格の違う5人のどの立場にも少しずつ共感できてしまう。

「評論家」たちが実際に足を運んでくれるには、広報係が50回も電話しなくてはならない。あくびをされたら大ショックだ。あくびはそれだけで「評価」の一形態だし、しかも、「感染」する。しかも、彼らが実に来てくれたというだけでは、果たして好意的な評を書いてくれるかどうかわからないし、第一、記事を書いてくれるかどうかすら分からない。彼らは数多くの招待を受けている。それこそ、大手のスポンサーの招待で自分たちにも何かメリットがあるようなケースでなければ、スルーされる可能性の方が多い。
うーん、いろいろ身につまされる。

聴衆とごく近い距離で演奏をしていて、前列の人のあくびが見えてしまって動揺するというケースはあった。貧乏ゆすりというのもある。
幕間にメンバー同士に一触即発の緊張がはしることだってある。
新刊を贈呈しても、書評を書いてもらえるとは限らない。

etc...。 

芝居も、アンサンブルも、本の出版も、チームワークでないと進めることはできない。観客やら聴衆やら読者やらとの「関係」をつなげるか以前に、もう人間ドラマがある。評論家やジャーナリストやら、その関係の触媒になってくれる人との「縁」や「相性」もある。

それでも、このタイプのクリエーション、つまり「場を共有してくれる生身の人たち」が必要なアートにかかわることはパッションなのだ。パッションと言うと日本語では情熱と出てくるけれど、アクションの反対、というか、受け身の情熱、自分で選んだというより抗いがたい情熱だと言えるだろう。
『評論家たち』ジャン=リュック・イエネール_c0175451_03345475.jpeg
そして、イエネールのような劇作家やこの小劇場で彼の作品を演じたり、観に来たりする人たちは、その「情熱」を共有するわけで、一時的だけれど、まるで同じ劇団に属しているような気になる。観客は20人ほどだった。初演二日目で、まだ「演劇評」は出ていない。
芝居に出てくる女優2人のキャラが秀逸だ。バイセクシュアルでエネルギーあふれる女優役と、「無知」な女優役だ。déontologieという言葉の意味を知らなかったり、みなが聖女の名前を挙げても理解できなかったりする(実は皆も、リジューのテレーズとルルドのベルナデットを混同しているというオチなのがイエネールの皮肉だが)。
無知というより、すなおで、みなの皮肉が分からない、少しずれた世界に生きている。フレデリックというこの女優がいつもずれていることで、逆にばらばらで牽制し合う他の4 人の波長が合ってしまう、というオチにもなっている。

イエネールはいなかったけれど、終演後、役者や別の観客といろいろ話すことができたのはこの小劇場のいいところだ。フランスだから、政治の話からコロナの話までたっぷり意見を交わすことができるのも楽しい。
今度はこのシーズンのシェイクスピアに行ってみよう。



by mariastella | 2021-11-21 00:05 | 演劇
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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