ベルギーの人気歌手にストロマエという青年がいる。
もとはラッパーで私の関心のあるジャンルの人でなかったのだけれど、同じベルギーのジャック・ブレルと比較する人がいるくらい、影響力のある歌を残してきた。その中のPapaoutaiパパウテなどは、父を探す子供のトラウマが感じられて辛かった。彼の父はルアンダ人で、ウガンダの部族闘争で親戚もろとも殺されたらしい。母は名からするとフランドル系のベルギー人だがストロマエはブラッセルで育ったのでフランス語で歌い、語る。肌の色は濃く艶やかで、両性具有風の不思議な魅力がある。
いろいろなトラウマを抱えた人だけれど、自分を形成してきた多様性の全てを糧にして豊かな世界をクリエートし続けている。
ストロマエというのはマエストロの音節を逆にしたものだ。俗語、隠語によく使われ、「l'envers逆(ランヴェール)」を逆にした「verlanヴェルラン」という。フランス語でアラブ人のことをarabe を逆にしてbeurというのもそうで、その俗語は、1998年にフランスがサッカーのワールドカップで優勝した時、チームのことを黒人と白人とアラブ人ということで゛「une France black-blanc-beur」として有名になった。
日本語なら母音と子音がセットだから、いわゆるアナグラムでも二文字の言葉なら即この「倒語」になるが、フランス語では母音が適当に変化するので分かりにくい。
そのストロマエがここ5年ほど表に出ていなかったのだが、1月初めにフランスのテレビに出て、鬱状態だった「地獄」を歌った2月発売の新曲『ENFER(地獄)』をはじめてライブで披露した。
しかも、孤独の中で音楽は支えになりましたか、とインタビューされている席で突然、という感じで。
コロナ禍で孤立した若者の自殺が急増したフランスの若者には衝撃的だろう。
「一人きりなのは自分一人ではない」ということを思い、自死を選ばなかったことが自分で誇らしい、という歌は、自死を踏みとどまったのエールになるだろうと思わされた。
コロナ禍の狂騒の犠牲になったジェネレーションを支える言葉や対策はいろいろあるだろうけれど、フランス語圏の若者にとって、ストロマエの「地獄」を聴くことが新しいスタートにつながるかもしれない。(このビデオの2分くらいのところから歌い出します)