モリエール生誕400年フランス語で、英語のことを「シェイクスピアの言語」と言い表すことがある。 同じ意味で、「ゲーテの言語」といえばドイツ語のことで、「セルバンテスの言葉」ならスペイン語、「ダンテの言葉」ならイタリア語だ。 で、フランス語の異名は「モリエールの言葉」。 2022/1/15はモリエール生誕(というか洗礼を受けた日だが)400年で話題になっている。 毎年この日には、コメディ・フランセーズで60人ほどの役者が全員舞台に上がって、モリエールの胸像を囲んで一人ずつモリエール作品のセリフを少しずつ述べるのだから、彼の影響力は生誕何周年という節目とは関係ないくらい大きい。 この生誕400年を記念して芝居の上演はもちろん、さまざまな歴史書や評論書が出版された。ドキュメンタリー番組もいろいろあり、そのうちの」といえばドイツ語のことで、「セルバンテスの言葉」ならスペイン語、「ダンテの言葉」ならイタリア語だ。 で、フランス語の異名は「モリエールの言葉」。 2022/1/15はモリエール生誕(というか洗礼を受けた日だが)400年で話題になっている。 毎年この日には、コメディ・フランセーズで60人ほどの役者が全員舞台に上がって、モリエールの胸像を囲んで一人ずつモリエール作品のセリフを少しずつ述べるのだから、彼の影響力は生誕何周年という節目とは関係ないくらい大きい。 この生誕400年を記念して芝居の上演はもちろん、さまざまな歴史書や評論書が出版された。ドキュメンタリー番組もいろいろあり、1/10 にそのうちのひとつを観た時、実は、すでに衝撃を受けた。生涯を丹念に追った2時間近いものだ。 ラシーヌとの関係、コルネイユとの関係、ルイ14世の侍者としての役割、タルチュフによる教会との断絶、どれもこれも、今まで特にその意味を考えてこなかった。バロック奏者でバロックダンサーの端くれである私にとっては、モリエールと言えば「コメディ・バレエ」というジャンルを創出してくれた人だからだ。『町人貴族』のバレエ入りの上演には多くの知人が関わっている。 バロック・バレエがフランシーヌ・ランスロ―らによって本格的に復活するまでは、バレエ抜きの芝居として長く上演され、読まれてきた。 モリエールとリュリーの蜜月は長く続かず、バロックギター奏者で優秀なダンサーでもあったルイ14世の「寵愛」はリュリーへと傾いた。 ともかくここ20年ほどの私にとってのモリエールは、バロック音楽とバレーと込みの人、しかも、ラモーやミオンの先駆者であるけれど彼等の域には達していない時代なので、関心の中心ではなかった。 さて、当時の「役者」はそれだけで、教会の墓地に埋葬されないという「非人」のような身分だった。 日本でも芝居小屋は「悪所」だったが、フランスでは劇場そのものは大いに保護されていた。 しかし、王が毎日バレエのレッスン(乗馬と剣術と並んで騎士の訓練の一部だったのだ)をしていたように、ダンサーや、音楽家は、立派な身分だ。「役者」だけが、宗教儀礼において差別されていたわけである。 モリエールといえば、「劇作家」だと思うけれど、彼のアイデンティティの一番は「役者」「劇団を率いる役者」だったわけで、自作のコメディだけでなく、他の作家による多くの「悲劇」も演じていたのだ。(結局、即興に近い道化芸や、常識はずれの風刺などが王にも受けたことで地位を得ることになったわけだが。) 私は17世紀後半のバロック・ジェスチュエルも、バロックバレエと共に勉強したので、モリエールの作品を当時のように発音する練習もした。コメディ・フランセーズでも、通常の上演では現代風の発音で読まれるが、時々は当時の読み方で上演される。 (今では多くの子音が読まれないし、連母音は変化する。それでも昔のままの綴りが残っているので、外国人はとまどうけれど、そのおかげで350年前のフランス語に楽にアクセスできるのだ) 実際の上演を観た回数よりも映画化されたものを観たりTV で観た回数の方が多い。(最初のモリエール体験は渡仏する直前に来日上演された『守銭奴』だったと記憶している。でも、日本では、バタイユやイオネスコの戯曲ばかり読まされたものだ。) 生誕400年は政治マターにもなった。パリ市長のイダルゴや共和党の大統領選候補ペクレスらがモリエールの「パンテオン入り」を求めたからだ。マクロンはこれを斥けた。 パンテオンはフランス革命後の共和国のシンボルで、革命前のフランスで王に仕えたモリエールは当てはまらないというのだ。これは理由になっていない。革命前に死んだルソーやヴォルテールだってパンテオン入りしているし、ヴォルテールは啓蒙思想家だが「イギリス型の王制は否定していない。「パンテオン入り」の基準は明文化されていず、革命最盛期の1792年に革命政府は、モリエールより20年も前に死んでいるデカルトをパンテオンに迎えているのだから。 また、パンテオンが政教分離の象徴で、共和国の神殿と言われるわけだけれど、1811年には、ナポレオンが自分のお気に入りの Kellie Caprara Mareriという3人のイタリア人枢機卿をパンテオンに迎えている。 文脈も時代も国も違うけれど、明治維新という革命で戦死者を祀るために造られた靖国神社に、その後に祀られた戦死者が「戦犯」だとか「キリスト教徒」であることでクレームがついてきた歴史のことも思い出した。 今でも、戦死者やら文豪やら思想家やら哲学者や政治家やらの多くの「神」を国の主導で祀るフランスの発想がユニークといえばユニークかもしれない。 モリエールの時代といえば、「非人」扱いの「役者」でも、臨終の床で司祭に「役者をやめる」と言いさえすれば、終油の秘跡を授けられて、無事に教会墓地に埋葬してもらえるシステムだった。ところが、モリエールは司祭の到着前に息を引き取った。 だから本来は、後のパンテオンどころか教会の葬儀もしてもらえない。でも、そこは、王の側近でお気に入りの役者であったモリエール、前年の四旬節に彼の告解に免償を与えたという司祭や、多くの人の証言によって、特別の「恩赦」をもらえて、無事にサン・ユスターシュ教会のサン・ジョセフ墓地に葬られる許可を得た。しかし、セレモニー禁止とはいえ、人々はリシュリュー通りのモリエール宅前に押し掛けた。1673/2/21(死んだのは17日の夜)、群衆を避けるために夜の9時に、蠟燭に伴われて棺が運び出され、十字架の下に埋葬された。それでも大群衆が集まり、貧者のためには1000リーヴルが硬貨で施された。 カトリック教会は、僧の偽善曝露に怒って『タルチュフ』を上演禁止にしていたほどで、大司教はすべての司祭に葬儀セレモニーを禁じたが、「追悼ミサ」は至る所で挙げられたという。 「モリエールの言葉」の満ちる世界で何十年も暮らせていることを感謝する。
by mariastella
| 2022-01-26 00:05
| フランス
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